あなたの味方だよ――苦しむ若い女性が駆け込める「まちなか保健室」の回復力 #今つらいあなたへ
ある女子大学生は、来室しても自分のことをあまり話さなかったが、谷口さんがアロママッサージを行う日に頻繁に訪れるようになった。あるとき、彼女にアロママッサージをしていると、途中で谷口さんの手を取り、強く握ってきた。谷口さんはそのままマッサージの手を止め、彼女が満足して力を抜くまで手を離さなかったという。 「辛いことがあったのでしょうね。リストカットの痕を見つけて、『あら、どうした?』と聞いたら『えへっ』とだけ言ってごまかしたこともありました」 そんな中で彼女はポツポツと、家では良い子でいなければならず、門限などの厳しいルールがあることや、時には父親に暴力を振るわれることを語るようになった。風俗で働いている、とも打ち明けた。お金をためて自立したいという思いの一方、風俗勤めが周囲にバレたらどうしようという不安や、なぜこうなったのかという自責の念にかられて、市販薬を過剰摂取してしまったことも。谷口さんは彼女の気持ちを否定せず、「その仕事をしていて苦しくなるようならやめてもいいと思うよ」と気遣った。 彼女は大学を卒業する際、谷口さんに手紙を渡した。「風俗のことで差別しないでいてくれてありがとう」「大好きだよ」などと書かれていた。 谷口さんは「これからも待っているからね」と伝えた。「実際に来なくとも、つらくなったときの選択肢の一つにまちなか保健室がある、というお守りのような感覚でいいんです」とほほ笑む。 「私のほうではここに来る子たちに、あなたをちゃんと見ているよ、味方でいるよというスタンスは変えないようにしています。一人だけでも自分を理解してくれる存在がいれば、何倍もパワーが出るはずだから」
来室者とちょうど良い距離感
谷口さんは「スタッフにとってもここは楽しいんですよ」と語る。 若年女性の支援に携わるのが初めてだった谷口さんは、当初、苦しさを抱える来室者が特定のスタッフに依存することがあるかもしれない、と考えていた。だが、2年以上スタッフをしてきて、来室者とちょうど良い距離感を築くことができているという。 「毎日同じスタッフが固定でいるわけじゃないのがいいんだと思います。来室者の子の中には、親に『お前はダメなやつだ』『死ね』などと言われ続けて、何か問題が起きると“死ぬ”という選択肢しか浮かばないような子も少なくありません。でも、ここでいろんなスタッフの意見を聞くうちに、『こういう選択肢があるんだ』と自分の頭で考えて、進む道を決められるようになるんです」 学校の保健室と違って“卒業”は定められていない。だが、スタッフが「この子はすごく良くなったな」と感じるようになると、巣立っていくかのように顔を見せなくなるという。