あなたの味方だよ――苦しむ若い女性が駆け込める「まちなか保健室」の回復力 #今つらいあなたへ
初めて訪れた日、“事件”が起きた。まちなか保健室では、スタッフも来室者も女性に限定している。性暴力被害などで男性がいると緊張する人も少なくないためだ。ところが、この日はたまたま取材中の男性がいた。茉優さんは男性が近くにいたことでパニックを起こし、衝動的に大量の薬をバッグから出して飲もうとした。それに気づいた別の来室者が慌ててスタッフを呼び、スタッフと茉優さんでこんなやりとりが繰り広げられた。 「ちょっと量が多いんじゃないかな。こんなに必要?」 「必要は、ないです」 「必要ないならこれはどうする?」 「捨てていいです」 スタッフが茉優さんを落ち着かせると、別の来室者も「薬を飲むより、他の対処法を学んだほうがいいね。これからもここに来たら?」となだめた。 予期せぬ出来事だったが、この日を境にオーバードーズが止まったと茉優さんは言う。 「まちなか保健室に来れば、お母さんやおばあちゃんのような職員さんが優しく話を聞いてくれる。家では感情を閉じ込めているのに、ここでは本音を出せて、カウンセラーさんと一対一の心理相談では泣き叫ぶくらいです。今では、自傷しようとすると職員さんの顔が浮かんで、手が止まるようになりました。私にとっては精神安定剤のような居場所なんです」 現在はアルバイトなど心理的負荷がかかる日も、「明日は“まちなか”へ行けるから頑張ろう」と前向きに過ごせるようになったという。
手を取り、強く握ってきた子
「茉優さんのケースは特別ではありません。話すときはいつも体全体にグッと力が入って緊張していたり、市販薬を過剰摂取していたりする子が少なくないのです。家庭の不和がある子は家では自分を押し殺しているようで、学校や職場では違う自分を演じていたり、過剰適応でストレスをためこんでいたりします」 そう語るのが、スタッフで看護師の谷口知加さん(43)だ。来室者からは「ちかさん」と呼ばれ、慕われている。 谷口さんは国際的なアロマセラピストの資格も持つ。もともと看護師として終末期の患者のケアにアロママッサージの技術を用いていたが、まちなか保健室で来室者の女の子たちが「親から触れてもらった記憶がない」と話すのを聞き、保健室でもアロママッサージを始めた。谷口さんが言う。 「心を閉ざしていた子がアロマオイルの香りを嗅ぐところから始まり、ハンドマッサージで徐々にコミュニケーションが取れるようになって、最終的には体にも触れるようになります。そこまでいくといろいろ話してくれるようになって、マッサージ中に感情の蓋が外れて『寂しすぎてどうしようもない』と大泣きした子や、逆に『マッサージ中が唯一、無になれる時間なんだ』と言っていた子もいます」