あなたの味方だよ――苦しむ若い女性が駆け込める「まちなか保健室」の回復力 #今つらいあなたへ
2年連続で女性の自殺者増加
まちなか保健室はコロナ禍に入った直後にスタートし、家にいることが苦しかったり、行動制限による孤立感に悩んだりする若年女性が駆け込める居場所となってきた。 だが同時期に、彼女たちの同世代で “死ぬ”という選択肢を選んだ人は少なくない。 2020年、2021年と2年連続で女性の自殺者数は増えている。また、感染拡大の影響で増加した自殺者数を調べている仲田泰祐・東京大准教授などの研究チームによれば、「コロナ危機による追加的自殺者の多くは若い世代」であり、20代女性が最多(2020年3月~2022年6月の試算で1092人)で、19歳以下の女性も高い水準で推移しているという。 10代後半から20代は、少女から大人の女性へと成長していく不安定な年頃だ。まちなか保健室の代表である大谷さんは「彼女たちと向き合ってきて、こういう支援が必要なのに、なかったと感じる。まちなか保健室が各地につくられてほしい」と願う。
「ここから人生が始まった」
支えがあれば、人は変わっていくことができる。 まなみさん(仮名、20代)は、まちなか保健室の来室者からスタッフに回った人だ。幼い頃から両親の支配が強く、時に暴力も振るわれた。「以前は何をするにも、親からどう言われるか、怒られないかばかり考えていました」 まなみさんは大学生活を続けるなか、コロナ禍で身動きが取れなくなった。ステイホームが推奨されていた時期で、家にいる時間が多くなったが、それに伴って家庭内でトラブルが頻発するようになった。親の暴力から逃れようと警察にも相談したが、取り合ってもらえなかった。友だちとも気軽に会えない状況下で、孤立感が深まった。助けを求めてインターネットで調べてたどり着いたのが、大谷さんであり、まちなか保健室だった。 「まちなか保健室では、ご飯を食べさせてもらったり、洋服をもらったりとお世話になりました。でも、何よりうれしかったのは、安心な場所で誰かと話ができるということです」 しばらく保健室に通ううちに生きることを楽しめるようになったまなみさんは、アルバイトに励み、現在は親元を離れて暮らす。そんな経験を踏まえたピアサポート(同じような立場の人による支援)に期待した大谷さんに声をかけられて、スタッフに転身した。来室者からすると、立場や年齢が近いまなみさんだからこそ話せることもあるようだ。まなみさんのことを「お姉ちゃんだと思っている」と慕う来室者もいる。まなみさんは言う。 「私も助けていただいた身なので、協力したいと前から思っていました。自分の役割をもらえて、やってみると女の子たちを助けるというより、社会で人と関わっていく自信を私がもらっているようです」 まなみさんにとって、まちなか保健室との出会いとは? そう尋ねると、大げさに聞こえるかもしれないですけど、と前置きしてまなみさんは言った。 「ここから自分の人生が始まったように感じています」 …… 秋山千佳(あきやま・ちか) ジャーナリスト、九州女子短期大学特別客員教授。1980年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。記者として大津、広島の両総局を経て、大阪社会部、東京社会部で事件や教育などを担当。2013年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『ルポ 保健室 子どもの貧困・虐待・性のリアル』『実像 広島の「ばっちゃん」中本忠子の真実』『東大女子という生き方』など