Jリーグで進む残酷なヒエラルキー ギラヴァンツ北九州・小林伸二前監督「国内では1~2チーム、超ビッククラブを作る流れにある」
【アカデミーの充実は必須】 ただし、ひとつ小林がギラヴァンツでやりきれなかったことがあるとしたら、それはアカデミー組織の充実ではなかったか。2021年、J2からの残留の危機にある際にも小林に話を聞いたが、その際にもユースのことは心がけていた。 「極端な話、トップチームの選手が大量にいなくなったって、ユースの選手を全員昇格させれば、クラブは潰れないわけです。逆に言えば、ユースがしっかりしていなければ、クラブは潰れるでしょう」 アカデミー組織の整備が「まだまだこれから」というギラヴァンツにあって、5年間のうちトップチームに昇格した選手は2人に留まった。 強くならなければならない。結局はそういうことだ。その大きな要素は「カネ」だ。これが現実。Jリーグは30年かけて「欧州発祥のサッカー」の残酷さをじっくりと浸透させてきた。 アメリカ発祥のスポーツのようにドラフトで戦力均衡化を図ったり、多くのチームに優勝の可能性が残るようにプレーオフを実施したりはしない。要はリーグの介入が最小限なのだ。日本では当然、先んじて発展した野球の事例から後者に大きな親しみがある。 1993年にスタートしたJリーグでは、まずは「引き分け」を理解してもらい(初期はリーグ戦全戦でVゴールやPKによる決着をつけていた!)、昇格・降格の苦しみを理解してもらい(1998年から。プロ野球に降格なし)、そして今よりシビアな「下位チームが躍進したら、翌年はより資金力のあるクラブに選手が流出」という現実へ。それも主力が何人か引き抜かれるのではない。前年度のレギュラークラス8人が抜けてしまう。 小林はそこに抗うために「地域のニーズから感じ取ったアグレッシブなサッカー」「アカデミーの充実」という手法を選択した。だが、取り組んで、結局は敗れた。J3最下位から始まり、J3最下位に戻った。Jリーグ参加資格を剥奪される寸前まで行った。 小林は「北九州はJリーグでの苦しい経験を最初にやっているのかもしれません」という。 確かに欧州リーグとの距離感が変わってきた今、Jリーグの大多数を占める下位クラブに及ぶ最大の変化は「アカデミー組織の存在意義の見直し」になるのではないか。そして「サッカースタイル」の選択と「明確な目標設定」が必要になってくる。(おわり)
吉崎エイジーニョ●取材・文 text by Yoshizaki Eijinho