「私の取材が差別を生むのか」偏見の先に見えたデカセギ外国人2世の生き方
夜の彷徨
あきらめきれなかった私は、深夜二時、浜松市東区天王町にある、24時間営業のアミューズメント施設の駐車場にいた。「ここなら、ブラジル人暴走族に遭遇できるかもしれない」と、駐車場の入り口近くに停めた軽自動車の中で、改造車や暴走族らしきグループが入ってくるのを待ちかまえていた。 しばらくすると極端に車高の低い、黒いセダンが入ってきた。改造車特有の耳障りなマフラー音に期待が高鳴る。重低音のダンス音楽が鳴り響く車内から降りてきたのは、暴走族というには迫力の欠ける男女4人組だった。運転席から降りてきたサーフパンツの男に、おそるおそる「すいません、日系ブラジル人暴走族の取材をしているんですが、周囲や知りあいにそういう方はいませんか?」と私は声を掛けてみた。 サーフパンツ男が首をかしげながら、「ここ最近、ブラジル人も減ったしなぁ。暴走族は知らねえけど、高丘のコンビニに行ったら、普通のブラジル人はいたよ」と答えてくれた。ジャージをだらしなく羽織った連れの女性に目が合うと、迷惑そうに首を横に振って知らないという仕草を返してくる。「あのさぁ、ブラジル人に直接聞けば良いんじゃないの?」・・・なにを聞いても、こんな返事しか返ってこなかった。 仕方なく翌日、彼らに聞いた高丘という土地に向かった。浜松駅から車を20分ほど走らせたところにある高丘は、住宅と倉庫や工場が混在する郊外の町並みだった。路地に入ってあてもなく車を走らせていると、プレハブ建ての格闘技道場があり、ブラジル国旗のステッカーとカポエラの文字が目に入った。なにか手がかりがあるかもしれないと思い、この道場を覗いてみることにした。 扉を開ける前から、大音量のブラジル音楽が鳴り響いている。3人の男たちが、音楽に合わせて側転のような動きをゆっくり繰り返す、ブラジルの伝統格闘技「カポエラ」の型を練習していた。 血の気の多い日系ブラジル人が、身体を鍛えにやって来ているに違いない。彼らなら、本物のワルと繋がっているかもしれないなどと、私は想像を膨らませた、彼らに「話を聞かせて欲しい」と声を掛けた。出てきてくれた1人が、工業高校の夜間部に通うワカスギ・カイオ・シルバ・ケンジ(17)さんだった。