「私の取材が差別を生むのか」偏見の先に見えたデカセギ外国人2世の生き方
裏切られた暴走族取材
注:9月23日掲載の本稿は、9月28日に改訂を行い、現在は第2稿となります。 「そういう取材には、あまり協力したくないんです」 私の前に座っている人物は、厳しい表情でそう告げた。まずいと思った私は「いや、ちょっとまって」と言葉を挟むが、つけいる隙が無い。「あなたみたいな人が、日系ブラジル人の悪い側面を面白おかしく強調することによって、彼らのイメージをねじ曲げていくんです。僕は、ここで頑張って暮らしている日系ブラジル人をたくさん知っているので、彼らを貶めるような事はしたくないんですよ」 その人物は、ブラジルでのJICAボランティアの経験もあり、現在ラジオDJとして活躍する鶴田俊美さんである。ポルトガル語と日本語による番組のパーソナリティーを務めており、日系ブラジル人のユースカルチャーにも詳しいことから、さまざまな事情が聞けると期待して取材をお願いしていた。 私は日系ブラジル人の若者の実情に迫ろうと考え、「ブラジル人暴走族」に的を絞った取材を計画していた。彼らを通して、日系ブラジル人社会の置かれた状況が見えてくればと考えたのだ。しかし私の取材計画は、鶴田さんからの一言で出鼻をくじかれてしまった。私はそれでも懲りずに、国会でも取り上げられたヘイトスピーチの話題に触れ「いま、在日外国人を取り巻く環境に注目が集まっていますが、浜松の日系ブラジル人社会に関心を持つ人は残念ながら少ない」と力を込め、「”ブラジル人暴走族”という極端な対象をテーマにすれば、記事にも注目が集まるだろうし、そこを入り口に日系ブラジル人社会への理解が深まるんじゃないですか」と、持論をぶつけた。 しかし鶴田さんは、「記事に注目が集まれば、あなたは成功かもしれません。でも、ここに住む多くの日系ブラジル人はその記事によって生まれた偏見を背負って、この場所で生きていかないといけないんです」とため息をついた。私の目をしっかり見つめながら「はっきり言うけど、あなたのやろうとしていることは、差別を無くすんじゃなくて、新たな差別を生み出すことになりませんか?それは、あなたがさっき私に話してくれた、ヘイトスピーチと同じではありませんか」」と静かにいった。 なくすべき差別の例としてあげた言葉が、まさか自分に返ってくるとは思っておらず、わたしは激しく動揺した。さらに鶴田さんは、私に「ブラジル人だけの暴走族なんていうのは聞いたことがありません。日系ブラジル人の話を聞きたいなら、別にふさわしい場所や人がいますよ。」とアドバイスをくれたのだが、もはや私の耳には届いていなかった。 それでも尚、かつて手に取ったヤンキー雑誌のグラビアに写っていた、「浜松のブラジル人暴走族」と書かれた少年たちの殺気に満ちた目が、脳裏から離れなかった。