“引き出し屋”に1300万円で望みを託した母の闘い ひきこもりの息子は遠く離れた地で亡くなった
■追加費用として385万円を振り込んだ そして入居から半年後、職員から「悠一くんが熊本にある研修施設に行くことを希望している」という連絡を受ける。しかも出発は翌日だという。松本さんは悩んだ末に契約期間を2018年2月までに延長し、追加費用として約385万円を振り込んだ。 あけぼのばし自立研修センターとはどのような民間施設なのか。 あけぼのばしは、ひきこもりの子どもを持つ親などと契約を結び、当事者を自宅から連れ出し施設や寮に入居させる「引き出し屋」と呼ばれる民間施設。クリアアンサー株式会社(2019年12月に破産)が開設、運営していた。
引き出し屋の中には悪質業者も少なくない。その特徴は①暴力や長時間の説得など、本人の意思に反した自宅からの連れ出し②支援内容に見合わない高額な費用③親の精神的、経済的な焦りに付けこむ④異様に高い問題解決率を掲げる⑤就職活動や就労を強制する――など。にもかかわらず、一部のテレビ局はこうした引き出し屋を、問題解決の救世主であるかのように報じた。こうした番組を見て契約を決めた親も多かったのではないか。 悪質業者がはびこる背景には、増え続けるひきこもりの問題がある。内閣府は2019年、中高年(40~64歳)のひきこもり状態の人は全国に61万3000人いるとの推計値を発表した。続く2023年には、子ども・若年層(15~39歳)と中高年を合わせたひきこもりは推計146万人にのぼると公表。いずれの層でも増加傾向にあるといい、高齢の親が、ひきこもりが長期化し中高年となった子どもの生活を支える「8050問題」が深刻化している現実を裏付けた。
私は2010年代後半から、親が契約した引き出し屋に強引に入居させられ、逃げ出すなどしてきた当事者の取材を続けてきた。「知らない男たちが突然部屋に入ってきて、両手足を持たれた宙づり状態で自室から車に運ばれた」「従わないと“精神病院”に入れると脅された。実際に入院させられておむつを付けた状態で拘束された」「携帯電話や所持金を取り上げられた。部屋の窓も開かないなど事実上の軟禁状態だった」「研修という名目で業者の関連会社で最低賃金以下で働かされた」など被害の実態はさまざまだった。