ノンフィクション作家が明かす「本の書き方」。本の質やインパクトは「構成」が左右する!取材で集めた“素材”をどう組み立てるかを解説。
〇「体験」(基本法則) 遺体安置所で遺体のために奮闘する人々。 ステップ3 〇「解決」(三幕構成) 他市が火葬の受け入れをしてくれることになり、僧侶たちが結成した仏教会も弔いを行うことになった。これによってすべての遺体の尊厳を守ることができた。 〇「意味の変化」(基本法則) 町の人々の温かな想いが詰まった遺体安置所。 このように、大ストーリーを考える時は、演劇でいう三幕構成、ノンフィクションでいう基本法則の両方にぴたりと当てはまるようにすると、物語としてのまとまりが生まれる。
前者に合致していればドラマとしてのダイナミズムが生まれるし、後者に合致していれば事実の意味を鮮やかに転換させることができる。これによって、大ストーリーの骨格が明快になるのだ。 ■本に組み込む小ストーリーの選定方法 本の大ストーリーが決まれば、次に取材で集めた数多の小ストーリーのうちのどれを採用するかを選んでいく。 大ストーリーは、数行で説明できる物語全体の大雑把な流れだ。実際の執筆では、大ストーリーをいくつかの章に分け、章ごと、あるいは小見出しごとに個別のエピソードを並べていくことになる。この個別のエピソードが、小ストーリーだ。
両者の関係性を図のようにイメージしてほしい。 大ストーリーは、複数の小ストーリーによって支えられて成り立っている。逆にいえば、小ストーリーの中身が適切でなければ、大ストーリーが崩れかねない。 ここで押さえたいのが、本に組み込む小ストーリーの選定方法だ。 まず、取材ノートに記録した小ストーリーをすべて紙に書き出してみてほしい。パズルのコマを一旦すべてテーブルに広げるような感じだ。そして大ストーリーに照らし合わせて、どの小ストーリーが必要なのか、くっつけられるものはないかを考え選んでいく。
話が抽象的になるのを避けるため、もう一度『遺体』を例にして具体的に考えていきたい。 まず私は先ほど述べたような大ストーリーを設定した。次にすべきは、大ストーリーに沿って、取材で集めた小ストーリーを選ぶことだ。取材をした相手1人につき4~8個の小ストーリーを聞き取っていたので、それらをすべて紙に書き出した。 たとえば、釡石市長であれば、「市長になった経緯」「遺体安置所や緊急対策本部の設置」「国の土葬の指示と市民への通達」「他県の火葬場の借用」、お寺の住職であれば、「遺体安置所への慰問」「仏教会の設立と遺体安置所での読経ボランティアの開始」「身元不明の遺骨の引き取り」などと記した。