ノンフィクション作家が明かす「本の書き方」。本の質やインパクトは「構成」が左右する!取材で集めた“素材”をどう組み立てるかを解説。
なぜこれが基本構造とされているのかといえば、ストーリーの肝が鮮明になるからだ。あえて展開を変えるとか、比重をずらすこともできるが、書き慣れている人は別にして、新人やセミプロの場合は、まずはこれを意識して大ストーリーの流れを考えた方が無難だろう。 ■ノンフィクションの基本法則 ただ、ノンフィクションを書くことにおいては、三幕構成と共にもう1つ念頭に置いてもらいたいことがある。冒頭で紹介したノンフィクションの基本法則だ。次の流れである。
〈事実→体験→意味の変化〉 演劇の脚本はフィクションなので1~3をゼロから想像力で作り上げなければならないが、ノンフィクションの場合は取材によって手に入れた情報がすでにある。したがって、三幕構成の3つのステップを、ノンフィクションの基本法則のステップに重ね、何をどこに配置すればいいのかを考えれば、よりスムーズになるはずだ。 具体的に、私の『遺体』という作品で考えてみたい。 これは、東日本大震災で被災した釡石市を舞台にした作品だ。同市では1000人に及ぶ死者・行方不明者が出て、犠牲者の亡骸は急設された遺体安置所に運ばれた。あまりに悲惨な空間となった遺体安置所だったが、そこに地元の医師、歯科医、民生委員、僧侶などが集まり、遺体の泥を落とし、祈り、身元確認をし、遺族の元に返そうとする。そんな2カ月間を追ったルポだ。
この本でいえば、次のようなステップになるだろう。 ステップ1 〇「設定」(三幕構成) 震災によって大勢の人々が亡くなり、遺体安置所に運ばれた。そこに医師や民生委員や僧侶など町の人たちが集まった。 〇「事実」(基本法則) 悲しみの遺体安置所。 ステップ2 〇「対立・葛藤」(三幕構成) 遺体安置所に集まった人々が必死になって遺体の身元を明らかにし、遺族の元に返そうとする。だが、火葬場が故障したり、見つかる遺体が膨大だったり、市がやむなく土葬の決断を下したりする。このままでは遺体の尊厳を守ることが危うい。