世界中が熱視線!発酵デザイナー・小倉ヒラクさんが考えるこれからの“発酵文化”
小倉:ハンガリーは食文化が豊かで、パリにも負けないくらい食に対するアンテナも高い。発酵コミュニティも盛り上がっているんです。
塩がなくても発酵で味を決められる
小竹:「発酵デパートメント」のオススメ商品は? 小倉:「発酵デパートメント」はクックパッドさんと一緒で、「作る人を応援する事業」です。なので、食材自体を作るキットをいっぱい売っていて、その中の1つに「ぬか床1年生」という商品があります。 小竹:うんうん。 小倉:ぬか漬けは最初に捨て漬けといって、2週間くらい野菜の切れ端とかを入れながら菌を育てなくてはいけないのですが、菌がブレンドされたジャムみたいなものがついていて、それを混ぜると微生物の生態系が高速で完成するので、漬けた次の日から食べられるんです。 小竹:私もこれを使っていますが、塩味が強くなくて絶妙なやさしい味わいがいいですよね。
小倉:ぬか漬けは塩分濃度が高くないほうがいい。6~7%がベストですが、手作りしている方は10%くらいのケースが多い。腐るのが怖いから塩分を入れちゃうのですが、冷蔵庫で管理すれば塩分濃度はもう少し低くていいし、塩分濃度が低いほうがおいしい。ただ、それを管理するナレッジがいるので、この商品はそれを飛ばすというものです。 小竹:これはすごくおいしかったです。 小倉:もう1つは、「みりんとす」というオリジナル商品です。これは僕がレシピも考案しているのですが、みりんと酢を混ぜただけのものです。 小竹:ネーミングがそのままですね(笑)。 小倉:みりん3に対して酢2の割合で混ぜただけのものですが、ポイントが2つあります。1つはみりんも酢も米と麹のみで作る伝統製法のもの。伝統的なものは結構めんどくさいことをやって作っているんです。 小竹:そうですよね。 小倉:酢の場合は麹を作って酒を作って酢を作るという3段階の発酵を行っているし、みりんは酒粕を焼酎にして麹ともち米に合わせて、水の代わりに焼酎を使う甘酒みたいなものを作って、それを何ヶ月も発酵させて甘い液体を作る。これを全て米と麹だけでやっているんです。 小竹:すごいですね。 小倉:旨味とか甘味とか酸味がいっぱい入っているので、量販品よりも味が複雑です。そのみりんと酢を掛け合わせるとどうなるかというのが2つ目のポイントなのですが、塩がなくても味が決まるんです。 小竹:うんうん。 小倉:江戸時代後期とかは塩が高かった。田舎の料理はしょっぱいイメージがあるかもですが、実は古いレシピを見るとあまり塩を使っていないんです。 小竹:貴重だからですよね。 小倉:リッチな味というと塩と油だと考えるけど、僕は昔の山の中のレシピを見ているから、そういうものがなくても味を決める方法がある、それは発酵だということがわかっている。で、塩の代わりに何で味が決まるかというと、酸味と旨味なんです。 小竹:なるほど。 小倉:酸味と旨味のバランスがきちんと取れていると、塩分が少なくても味が決まって満足感がある。油分もそんなにいらない。それを1発で出せる調味料が「みりんとす」です(笑)。 小竹:魔法の調味料ですね(笑)。 小倉:人間の味覚は結構複雑で、いろいろな味わいを知覚できる。ただ、塩と油は強いから多めに使っちゃうと、ほかの味が隠れちゃう。 小竹:そうですね。 小倉:だから、思い切って塩を使わないで、こういうものを使うと、料理はいろいろな味わいが出せるということを感じてもらえると思います。