名著「失敗の本質」にみる、学校教育の根深い問題 抽象的で状況を並べただけのあいまいな戦略
2024年8月15日で太平洋戦争の終結(1945年)から79年が経った。実際に戦争を体験した人が減っていく中で、その過酷な現実や本質を知る機会が減っているが、毎年夏になると戦争に思いをはせる人も少なくないだろう。当時を知ることで、今自分が向き合っていることをまた違った視点でとらえることもできる。ここでは、教育研究家の妹尾昌俊氏に太平洋戦争を扱った1冊の書籍から教育行政や学校教育の実情を考えてもらった。 【写真を見る】教育研究家の妹尾昌俊氏に太平洋戦争を扱った1冊の書籍から教育行政や学校教育の実情を考えてもらった 毎年8月になると、多くの日本人がアジア・太平洋戦争のことを思い出す。とりわけ、今年は大人気のNHK朝ドラ「虎に翼」でも描かれているので、あの戦争は何だったのかと、改めて考えた方も多いのではないだろうか。 そこで今回は、太平洋戦争を扱った1冊の書籍から教育行政や学校教育の実情を考えたい。戸部良一ほか(1991)『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』(中央公論新社)だ。とても有名なロングセラー本で、政治家や経営者にはこの本を「座右の1冊」とする人も多くいる。初版は1984年で、40年前のものだが、こんにちにもとても参考になる。
われわれは何を目指しているのか…あいまいな戦略目的
『失敗の本質』で、日本軍の失敗の要因として最初に指摘されているのは「あいまいな戦略目的」についてだ。戦略ないし作戦の明確な目的がなければ、軍隊という大規模組織をバラバラに行動させることになりかねず、それは致命的な欠陥になる。 読者の皆さんにとっては、「何をそんな当たり前のことを」と思われるかもしれないが、この問題を日本軍はあちこちで起こしている。太平洋戦争のターニング・ポイントとなったミッドウェーの戦いでもだ。 ミッドウェー作戦の主眼とするところは、ハワイ奇襲で撃ちもらした米太平洋艦隊の空母群を補捉撃滅することであった。(中略)つまり、この作戦の真のねらいは、ミッドウェーの占領そのものではなく、同島の攻略によって米空母群を誘い出し、これに対し主動的に航空決戦を強要し、一挙に捕捉撃滅しようとすることにあった。ところが、この米空母の誘出撃滅作戦の目的と構想を、山本(引用者注:山本五十六連合艦隊司令長官)は第一機動部隊の南雲に十分に理解・認識させる努力をしなかった。 (中略)一方ニミッツ(引用者注:チェスター・ニミッツ米太平洋艦隊司令長官)は、場合によってはミッドウェーの一時的占領を日本軍に許すようなことがあっても、米機動部隊(空母)の保全のほうがより重要であると考えていた。そして、「空母以外のものに攻撃を繰り返すな」と繰り返し注意していたのである。 出所:『失敗の本質』pp.100-101 詳細は割愛するが、陸戦のターニング・ポイントであるガダルカナルの戦いでも、戦略デザインのなさと現状認識不足の問題が露呈した。日本軍は、米軍の反攻を想定も研究もできておらず、陸・海・空統合作戦がなされなかったのはもちろんのこと、戦力の逐次投入が行われた結果、敗戦を重ねていった。 さて、皆さんの学校や教育行政ではどうだろうか。約80年前の古臭い話と、笑って済ませられるだろうか。 学校は何のためにあるのか。個々の教育改革や取り組みの先には何があるのか。目の前の仕事は何のためなのか。たくさん重要なことがある中で、何を優先する必要があるのか。こうしたことが十分に共有されている、と胸を張って言える学校、行政は少ないのではないかと思う。 現に、学校のビジョンや経営計画については、ほとんどの校長が4月の職員会議などで説明しているはずだ。だが、覚えている教職員はおそらく少ない。美辞麗句や多少のキャッチフレーズを並べて、それっぽいことは書いているのだが、何を重視するのか、行動指針になっていないからだ。