「町長室で性交渉」の虚偽告白、真偽判明前に拡散…町民「草津が悪い形で世界に発信されて悔しかった」
群馬県草津町の黒岩信忠町長(77)と町長室で性交渉したという新井祥子元町議(55)の告白が民事訴訟では虚偽だったと先月確定し、舞台は18日に初公判が開かれる刑事裁判に移った。告白は真偽が確認される前に報道とインターネットで瞬く間に世界に広がり、町長と町には批判が殺到した。専門家は「誰でも情報を発信できる今は、報道機関には情報の質の担保を図る責任がある」と指摘する。 【写真】草津町の黒岩信忠町長
新井氏の告白は、2019年11月に出版されたフリーライターの電子書籍に掲載された。15年1月の朝に町長室で性交渉したという内容は衝撃的で、新聞やテレビなどのメディアは大きく取り上げた。米仏などの主要メディアも相次いで報道。告白の真偽が明らかになっていないにもかかわらず、「性交渉があった」との前提で書かれた記事も多くあった。
草津温泉観光協会のツイッターには当時、「一生行く気にはなれない」「草津の文字を見ただけで不快」などの書き込みが相次いだ。さらに性暴力被害者らで作る一般社団法人や野党の政治家、東大名誉教授も町長や町を批判。町議らによる解職請求(リコール)が20年12月に成立して新井氏が失職すると、草津温泉の湯畑ではデモが行われた。役場や宿泊施設を標的とする爆破予告メールも町に届き、小中学校が休校に追い込まれた。役場は抗議の電話が鳴りやまず、業務に支障が出たこともあったという。
町長は当初から告白の内容を否定し、19年12月、新井氏や電子書籍の著者らに慰謝料の支払いなどを求めて提訴。前橋地裁は今年4月、2人に性交渉はなかったと認定し、新井氏と著者に計275万円の支払いを命じた。11月の東京高裁も告白は虚偽と認定、新井氏側が上告せず確定した。
ただ、裁判の風向きは23年11月、新井氏が法廷で性交渉はなかったと発言したことで変わっていた。一部の団体や政治家は役場で町長に謝罪。謝罪文を送ったり公式サイトに掲載したりする団体もあった。書籍の著者は4月の判決後、110万円を支払った。