SL人吉が引退、名残惜しむ乗務員、技術者 老朽化に部品調達、技術者確保難しく
JR九州は3月23日、人気観光列車「SL人吉」の運行を終えた。101年前に製造され、現役としては国産最古の蒸気機関車(SL)の老朽化に加え、部品調達や技術者確保が難しくなったため。その型式から「ハチロク」の愛称で親しまれており、ラストランを控えて鉄道ファン、乗務員や技術者からも名残を惜しむ声が上がった。 「カンカン、カンカン…」。3月7日早朝、熊本市の熊本車両センターでは鋭い金属音が響いていた。部品に緩みがないか、ひびが入っていないか。その日乗務する機関士と機関助士がペアとなって出発前の点検を入念に行っていた。前日昼から寝ずの番で石炭を継ぎ足して保温したかまで、徐々に圧力を上げていく。 「味覚以外の五感を全て使って運転する」と説明するのは、蒸気圧の管理を担う機関助士仮屋諒(かりや・りょう)さん(37)だ。SLの力強さに魅了され、電車や気動車の運転士と13年間掛け持ちしてきた。夏場は50度近くまで上がるかまの前で石炭を投入し続ける。「SLには先輩から受け継いできた歴史と愛がある」と語る。
相棒の機関士原孝祐(はら・こうすけ)さん(48)は初乗務で、ボイラーの不調で蒸気圧が上がらなかったことが忘れられない。運転中の楽しみは手を振る沿線住民やファン、乗客の笑顔。「笑顔を最後まで運びたい」と力を込める。 熊本市の団体職員豊福尚旦(とよふく・たかあき)さん(34)は2024年1月、貸し切りツアーで乗車。「動くSLを見たことがなく最後のチャンスと思って申し込んだ。引退は残念」と話した。 「ハチロクは嫌いだった」とはにかむのは、36年間検査・修繕を担ったJR九州エンジニアリングの整備士玉井明人(たまい・あきと)さん(67)。日豊線を走るSLを見て育ち、国鉄に入社後は北九州市の小倉総合車両センターであらゆる鉄道車両に携わってきた。 SLは“別物”だった。「一つ一つが手作業で失敗が許されない。妥協が故障につながってしまう」と気が抜けない。6年に1度の解体検査では、油やすすで汚れた部品を光るまで磨いた。引退には「寂しいの一言。一緒にやってきた仲間を思い浮かべる」と漏らす。