大企業の「内部留保」511兆円に課税すべき三つの理由――企業の合理性が「社会全体の非効率」を生み出す
5月1日に行われたメーデー中央大会で共産党の田村智子委員長が、大企業の内務留保の一部に課税するよう訴えたが、共産党ならずとも企業の内部留保や現預金に課税を望む声は少なくない。 【写真を見る】アメリカ税制史を通じて、最もラディカルな法人課税を導入した大統領
実は1930年代、フランクリン・ローズヴェルト政権下のアメリカで内部留保利潤税が導入されたことがある。当時のアメリカ人はなぜ内部留保に課税すべきだと考えたのだろうか。京都大学大学院教授の諸富徹氏は、著書『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』(新潮選書)の中で「アメリカ税制史を通じて、最もラディカルな法人課税」と評し、興味深いその目的を紹介している。一部を抜粋・再編集してお届けしよう。 ***
税金に取られるくらいならば……
ヘンリー・モーゲンソー長官ら財務省の幹部は、この新税(留保利潤税)が反独占政策のための非常に有効な手段になるのではないかと考えていた。彼らは、独占・寡占企業が内部に貯め込んだ巨額の資金を銀行からも機関投資家からもチェックされることなく活用し、いっそうの規模拡大による経済権力の集中を図っているため、経済のさらなる不均衡が作り出されていると見ていた。中小企業にはそんな資金余力はない。株主に高い配当を約束することによって、株式市場から資金調達を図らざるをえない。内部留保でコストをかけずに資金調達が可能な大企業と、高い資金調達コストにあえぐ中小企業の格差。これが投資余力の格差を拡大させ、大企業の優位性をさらに高め、独占・寡占体制を強化している。このような趨勢を食い止めるためには、法人の留保利潤に課税することで、その内部留保を吐き出させなければならない。 財務法務官のハーマン・オリファントなどは、さらに一歩先のことまで睨んでいた。留保利潤税を導入すれば、企業はどう動くか。税金に取られるくらいならば、株主への配当の支払を促進し、増やすことになるだろう。だとすれば、この新税は独占に対する規制以上の効果が見込める。それまで企業内に貯め込まれていた原資が株主の手に配当の形で分配されるようになると、内部留保の使途に関する決定権は次第に一般の株式投資家の手に委ねられてゆき、「投資決定権の分散化」、つまり経済民主主義の促進につながるとオリファントは考えたのである。