腹痛と下痢や便秘に半年以上前から悩む人が、過敏性腸症候群(IBS)と診断されるまで
症状が急激に進行するときは、IBSではなく「器質的疾患」を疑う
IBSを診療する際に重要なのは、“症状が似ているけれど命にかかわる病気”を除外して、IBSだと正しく診断することです。IBSの診断基準には、“6ヵ月以上前から症状があり、直近3ヵ月は診断基準を満たすこと”が必要とあります。命にかかわることもある「器質的疾患」を除外するうえでも重要なのがこの項目です。 IBSの原因は「体質」なので、環境によって症状が変化したり、対処のまちがいで悪化したりすることはありますが、急激に悪化することは通常ありません。ですから、症状が急激に悪化したなら、それはIBSではありません。 器質的疾患の、特にがんや炎症性腸疾患は、通常半年で症状が悪化します。6ヵ月以内に体重が3kg以上減少したり、血便、貧血などがみられたりしたら、おもに器質的疾患を疑います。 一方、感染症などによる下痢は通常1ヵ月以内に改善してしまいます。上記の項目を満たすことで「器質的疾患」ではないIBSを的確に診断し、原因に対する治療ができるようになります。 【混同されやすい病気】 ●感染症 急激な悪化は、感染症にかかっている可能性があります。下痢、腹痛のほか、吐き気、発熱などが現れます。自然治癒することが多いです。 ●炎症性疾患 慢性に腸管に炎症を起こす病気を炎症性腸疾患といいます。潰瘍性大腸炎やクローン病のように、原因不明で長期にわたり、難病指定されているものもあります。また、慢性膵炎のように、膵臓が炎症を起こしても下痢を起こします。 ●大腸がん 初期には症状がなく、腹痛もありません。気づかないうちに進行すると、便秘、下痢が現れます。便潜血検査を定期的に受け、陽性になった人は大腸内視鏡検査を受けましょう。早期に発見すれば、内視鏡で多くは治療が可能です。 ●腸ねん転 なんらかの原因で腸がねじれてしまう病気で、S状結腸に起こることが多いです。慢性的な便秘のほか、先天的な要因、加齢、薬の副作用なども影響します。強い腹痛、吐き気、嘔吐が急激に現れ、大腸が壊死することがあります。緊急の対処が必要です。