海の恵みに震災の経験を生かした“ご飯のおとも”
ひととき庵 ごろっと旨辣 焼●(さば) ●は魚編に青
蓋を開けるとラー油に浸かったサバが思いのほか大ぶりで期待が膨らむ。熱々のご飯にのせ、すぐさまパクリ。脂のりの良い焼きサバと、辛くて旨みのある絶妙な味付けがピタリと合って、ご飯との相性も抜群だ。 この焼きサバの瓶詰めを作っているのは水産会社・鮮冷(せんれい)。宮城県女川(おながわ)の魚市場からすぐの所に本社工場を構えている。 三陸の金華山沖は親潮と黒潮が出合う潮目にあたり、世界三大漁場の一つだ。女川は魚種の豊富な「前浜もの」の恵みで栄え、牡蠣(かき)、ホタテ、銀鮭などの養殖業も盛んだ。 鮮冷は女川で長年水産業に携わる石森商店と岡清(おかせい)が2013年に設立。石森商店は鮮魚の冷蔵冷凍事業、岡清は鮮魚の販売や加工を担ってきた。両社とも11年の東日本大震災では甚大な被害を受けた。震災当時、石森商店では浸水を免れた冷凍庫にあった魚を避難所に配ったものの、避難所では調理する術がなかったため、廃棄するしかなく、歯がゆい思いをしたという。
「震災の経験から、常温で長期間保存ができ、火を使わなくてもすぐにおいしく食べることができる製品作りをしています」と品質管理室室長の内海晃一さん。日頃から手軽に魚を食べることができ、いざという時の備えにもなる商品だ。 サバは金華山沖でとれたものを中心に使用。目の前の魚市場に水揚げされるので、鮮度も折り紙付きだ。新鮮なうちに冷凍し、製造時に鮮度を保ったまま下処理しカット。香ばしく焼いて調味し、手作業で丁寧に瓶詰めされる。 サバはこれまで定番の醬油や味噌味の煮付けのほか、カレーのシリーズではタイ風のグリーンカレーにも商品化されてきた。どれも長く保存でき、トレーのまま温めて食べることができる。「旨辣」の瓶詰めには当初、ホタテに白羽の矢が立ったが、素材の味がしっかりしていて、多くの人に好まれる焼きサバの方が、ラー油との相性が良いと判断し選ばれた。
最も苦労したのは味付けだ。「辛いだけでは飽きてしまいます。旨いと辛いを両立し、繰り返し食べたい味になるまで約1年半かかりました」と商品開発室の鈴木まやさん。ゴロッと存在感のある「旨辣」味のサバは、そうめんや冷や奴と合わせても、手軽に栄養が取れてご馳走感が増す。これからの季節、鍋料理の薬味にするのもおすすめだそうだ。 文/堀内志保 写真/堀内 孝 ひととき庵 ごろっと旨辣 焼●(さば) ●は魚編に青 780円 鮮冷 住所:女川町市場通り8 電話:0225・25・5100 通販(WEB)のほか、道の駅おながわ内「お魚いちば おかせい」(女川町)などで販売。 ※「旅行読売」2024年11月号の特集「ご飯のおとも」より