生成AIの発展と、クリエイターの権利保護は両立する? 上野達弘さんインタビュー後編
生成AIが出力した作品が著作権を侵害していたとき、その責任を負うのは誰なのか。 早稲田大学法学学術院教授で『AIと著作権』などの著書も出版している上野達弘さんへのインタビュー。「学習」について焦点をあてた前編につづき、後編ではAIによる「生成」の課題を深掘りする。 【動画】手塚治虫原作の『ジャングル大帝』(1965) 著作権侵害になるかどうかの判断基準や、AIを使用する人が意識するべきこと、クリエイターの権利をどう守るべきかについて、話を聞いた。
生成AIによる作品が、既存作品の著作権侵害となりうるケースとは?
―たとえば、生成AIが出力したものが、既存の著作物に類似していて、著作権侵害を問われる可能性もあると思います。そのような類似性をどう見極めるのかについては、文化庁の委員会文書で示されたのでしょうか? 上野:もし生成AIが出力したものが著作権侵害にあたると、AIを使う人も、提供する人も、あるいはAIを開発する人も法的な責任を負う可能性があります。生成AIの利用にはリスクがつきまとうことを理解する必要があるかと思います。 その上で、著作権侵害だと認定されるためにはご指摘のように「類似性」が必要ですが、それに加えて「依拠性」が必要です。 依拠性とは、自分の著作物が他人の著作物に基づいてつくられたものだということです。したがって、他人の著作物に基づくことなく独自に作成したという場合は、依拠性がないため、たとえ他人の著作物とまったく同じものだったとしても著作権侵害になりません。 しかし、この依拠性の具体的意味がAIに関連して議論になっています。つまり、学習元コンテンツのなかに他人の著作物が入っていたというだけで、すべての学習元著作物について「依拠している」と言えるのかどうか、という点をめぐって論争があります。人が見聞きするのと、機械が学習するのとでは違いがあるのではないか、機械は人と違って一度学習した物を忘れないのではないかといったかたちで、いまも議論が続いています。 その結果、文化庁の「考え方」のなかでは、「原則依拠性を認めるしかない」という趣旨の考えが記述されていますが、他方で、つねに依拠性があると言えるかどうかは課題になるというような書き方がされています。 他方、「類似性」については、「考え方」でも明確な指針は示されていません。したがって、曖昧なままとも言えます。 なぜかというと、既存の著作物と類似しているかどうかという問題はAIに限って起きるわけではなく、人間がつくったものについても起きるからです。そして、著作権侵害の要件としての類似性は、AIが生み出そうが人間が生み出そうが同じ問題で、その判断にも違いはありません。ですから、今回の「考え方」にも具体的な基準が示されているわけではないのです。