「神頼みではなく備えを」地震国トルコで防災指南を続けるベテラン駐在員、気付けば講演500回 「できるのは俺しかいない」活動支える使命感とは
▽被災地に広がる無機質な更地 大地震から1年に合わせて、記者は今年2月、甚大な被害が出たトルコ南部アンタキヤを訪ねた。市街地では倒壊建物の撤去が進み、無機質な更地が広がっていた。一見すると、耕された畑にも見えるが、よく見れば、がれきを撤去した後に地面をならしてあるだけだった。 視界に延々と続くのは、建材や家具の破片、壊れた生活用品、ゴミ。今なお行方不明の家族を探し続ける人、墓地で泣き崩れる人、使えるものがないか歩き回る人の姿もあった。 トルコ政府は復興住宅の建設と引き渡しを進め、成果を強調するが、トルコ全体では70万人がコンテナ式の仮設住宅で暮らし続けている。自力で生活できない貧しい人たちが、仮設に取り残されつつある現実があった。 ▽前世はきっと… 大地震の発生後、森脇さんはトルコのテレビ各局から引っ張りだこになり、今年1月の能登半島地震でもテレビで解説した。 森脇さんが小中高生や専門家、業界関係者向けに続けてきた講演は、これまでに500回を超えた。「考えてみると、トルコ語で地震や建物の話ができるのは私しかいない。日本から先生が来ても通訳が入り、しかも専門用語になる。トルコにも学者はいるが、適当なことばかり言う。自分の言葉なら伝わる。『これができるのは俺しかいない』という感じになっている」と話す。
昨年、引退を予定していたが、安藤ハザマの本社に活動を評価され、続投することになった。これからも「国も自治体も学校も家庭も、みんなが地震に備えれば、被害の7割は防げる」と訴え続けるつもりだ。 どうしてこれほど頑張れるのか、自問したことがある。「私の前世はきっとトルコ人なんだ。正義感だけではない。使命感がある。死ぬまで続ける」。そう語る笑顔には、充実感があふれていた。