「神頼みではなく備えを」地震国トルコで防災指南を続けるベテラン駐在員、気付けば講演500回 「できるのは俺しかいない」活動支える使命感とは
昨年2月に発生し、トルコだけで5万3千人以上が死亡した大地震から1年が過ぎた。トルコは日本と同じ地震国ながら、建物の耐震強度や住民の備えが十分とは言えない。 トルコで差別と弾圧、加えて大地震…「故郷で生活できない」のに強制送還か クルド人を絶望の淵に落とす、日本の入管難民法改正
「トルコ人は神頼みばかり。日本人もお祈りするが、やることをやってからお祈りする。あなたたちは始めからお祈りする。それではだめだ」。トルコに住む1級建築士の森脇義則さん(68)は厳しい言葉と冗談も交えながら、 防災対策を呼びかける講演を続けている。備えれば被害は減らせると信じ、講演は500回を超えた。異国の地でなぜそこまで頑張り続けられるのか。本音に迫った。(年齢は取材当時、共同通信イスタンブール支局 橋本新治) ▽きっかけは東日本大震災 森脇さんは日本のゼネコン「安藤ハザマ」のトルコ代表で、1990年からトルコで勤務してきた。建築現場を渡り歩き、流ちょうなトルコ語も現場の作業員仕込みだ。トルコ建国の父、アタチュルクへの敬愛も深い。 トルコで講演を始めたきっかけは2011年の東日本大震災だった。「自分に何かできることはないか」と考え、思い立ったという。昨年2月のトルコ・シリア大地震では、1923年のトルコ共和国建国以来、最悪の被害が出た。建物の強度不足や欠陥工事が被害の拡大を招いたと指摘される。「トルコの建物も日本同様にちゃんと建てていれば、そこまで被害は出ないはずだ」と強調する。
▽トルコ人よりも「トルコ人」 今年1月、トルコ北西部ヤロワで高校生向けの講演会を取材した。森脇さんは慣れた語り口で経歴を披露し「ある意味、私は皆さんよりトルコ人だ」と笑いを誘った。トルコ語で軽快に冗談を飛ばして聴衆を引き込み、地震が起きる仕組みから身を守る方法まで丁寧に説明する。 「トルコの建物の50%は無許可建築と言われる。地震が起きたとき、日本のように机の下に隠れるより、トルコでは『命の三角形』が有効だ」と呼びかけた。 命の三角形とは、地震で壁や天井が崩れ落ちた際、ベッドや家具の脇にできる三角形の隙間のことだ。倒壊建物から身を守る空間になる。昨年の大地震でもここに逃れ、助かった人が多かった。がれきに埋もれたときに備え、ベッド横に、金属製のホイッスルや水、チューブ入りのチョコレートを常備しよう―。これも森脇さんが常に訴えるポイントだ。「家族の集合場所を決めておくべきだ」とも説明した。講演を聞いた高校2年のエブラル・コチュさん(14)は「なるほど!と思った。考えたこともなかった」と話す。