第二次世界大戦から崩れ始める「戦争の姿」徐々に減少した主権国家間の紛争
変わる戦争の姿
先に、第二次世界大戦と民族絶滅戦争の話をしました。このような戦争が非対称戦争ということですが、ユダヤ人に対するホロコーストを非対称戦争と表現するのはあまりにも極端な例かもしれません。なぜならユダヤ人は一切抵抗することなく虐殺されたのですから。 一般に非対称戦争といえばゲリラ戦のような正規軍と非正規軍との戦争を指します。たとえばベトナム戦争(1960年代から70年代)です。一方の当事者はアメリカ合衆国という国家なのに対して、もう一方は南ベトナム解放民族戦線というゲリラ軍でした。 1979年から始まるソ連のアフガニスタン出兵も、ソ連軍はアフガニスタンのゲリラ軍と戦っていました。類似語に低強度紛争という表現もあります。 2001年、アメリカの同時多発テロの後、ブッシュ大統領の下で始められたアフガニスタン紛争や、2003年のイラク戦争といった対テロ戦争(正式には「テロとのグローバル戦争」)も、国家対イスラーム組織アルカイダという非対称戦争の典型です。 20世紀後半から内戦も増えてきています。内戦の原因はやはり先に述べた国民国家の理念と現実との乖離です。非対称戦争や内戦は伝統的な国際法による枠組みでの処理が困難になります。従来、紛争に関する枠組みは戦時/平時、国際/国内に分けて考えられました。しかし、テロとの戦いは戦時なのか平時なのかわかりません。 また、内戦の主体は国家ではないため戦時国際法が適用できず、目もあてられないほどの惨劇が繰り広げられます。ロシアとウクライナの戦争の報道で、ロシアにワグネルと呼ばれる民間軍事会社があることを知った人がいるかと思います。この民間軍事会社も国軍ではないので残虐な行為を平気でやるといわれています。 まさに紛争といえば国家間戦争だった20世紀前半までと大きく異なり、国際法で対処しにくい事態が増加していることを「世界大戦から世界内戦へ」と表現したのが笠井潔です。『新・戦争論―「世界内戦」の時代』(言視舎)の中で、ドイツの思想家カール・シュミットの言葉を借りて、19世紀から21世紀に至る戦争のあり方を語っています。 2022年に始まり現在も続くロシアとウクライナの戦争ですが、この戦争が始まった当初、「21世紀になってまさか主権国家同士の戦争が、しかもヨーロッパで起こるとは」という声があがりました。これは、戦争のあり方が非対称戦争になっていく流れに逆行して帝国主義の時代に逆戻りしたように見えたのです。