「最古の宇宙」を激写せよ!「ノーベル賞級の発見」を狙う人工衛星の「スゴすぎる仕組み」
図:DMR
日本語ではマイクロ波差分装置と呼ばれ、電波の空間的なムラを見ることで、電波の強さがどれくらい変化するのかを見るものです。一方からくる電波を測定すると同時に、別方向からやってくる電波も測定するのです。ただし測定するのは二つの電波の比、つまりどちらからくる電波がどれだけ強いかという相対的な割合だけです。電波の絶対的な数値を測定するのは大変なので比較だけをするわけで、だから「差分」装置と呼ばれているのです。 こうした三つの装置が搭載されたCOBEは、半年間かけて全天空を観測し、全天球、つまり空全体をスキャンすることができます。そうすると、空全体の電波の強弱がわかるのです。このような観測によって描かれたのが、図「COBEが発見した電波のゆらぎ」です。
図:COBEが発見した電波のゆらぎ
この図は全天球を描いたものですが、平らな紙の上に球を広げて載せることはできませんから、地球表面の地図を描くような方法で描いています。そして電波のゆらぎをとらえ、電波の強いところを赤で、弱いところを青で描くようにして濃淡をつけてあります。もちろん写真ではなくコンピュータ処理によって描いた図です。ただし電波の強弱は、色の違いや濃淡からイメージされるほど大きな差異があるわけではありません。最大でも10万分の1程度の、わずかなゆらぎがあるにすぎないのです。
「ゆらぎの発見」でついにノーベル賞受賞!
歴史的に見ると、COBEよりも前に、多くの研究者たちがこの電波のゆらぎを見つけようとしています。たとえば、ロシアでは「レリック」という人工衛星をCOBEより10年も前に打ち上げていますが、実現できませんでした。それは、このゆらぎがあまりにも小さいものだったからです。 COBEに搭載した小さなDMRを使って、このわずかなゆらぎの発見に成功したのは、ジョージ・スムートというカリフォルニア大学バークレイ校に設置された研究所の教授です。このときのことを私はいまでも覚えていますが、ニューヨークタイムズは一面のほぼ全面をCOBEのニュースに割いていました。スムートは発見のあと、ニューヨークタイムズの記者会見でこう話しています。 「自分の発見によって多くの人々は、インフレーション理論が正しいことを知るようになるだろう」 なぜスムートがそんなことを言ったのかというと、COBEは宇宙が生まれてから30万~40万年後の姿、それも量子ゆらぎがインフレーションによって引き伸ばされてできた宇宙の凸凹を詳細に描き出して見せたからです。凸凹の山の高さや大きさといった統計的な性質が、計算されていた量子ゆらぎの性質と一致したからです。 インフレーション理論は、どの場所にどんな大きさの山や谷ができるかという具体的な位置や強さを予言しているわけではありません。しかし、宇宙初期の指数関数的膨脹によって量子ゆらぎが引き伸ばされるとどの程度の山や谷(あるいは濃淡)がどのくらいの割合で存在するはずだという比率的なことは理論上、予言していて、それが統計的に一致したということなのです。 この発見によって、2006年にスムートは、マザーとともにノーベル賞を受賞しました。もっとも、この発見に関して理論家たちは、宇宙初期が火の玉であったことはまったく当たり前のことだと考えていましたから、その通りの電波が届いていたという発見に対する大きな驚きはありませんでした。しかし、スムートが描き出して見せたマイクロ波背景放射のゆらぎは、インフレーションの証拠になる観測としても、インパクトのある大きな成果だったのです。 * * * さらに「インフレーション宇宙論」シリーズの連載記事では、宇宙物理学の最前線を紹介していく。
佐藤勝彦