中国が対日短期ビザ免除再開 福岡県内の企業歓迎 観光は相次ぐ殺傷事件で不透明
中国政府は30日、新型コロナウイルス禍で停止していた日本人に対する短期滞在ビザの免除措置を約4年半ぶりに再開した。中国側が一方的に再開に踏み切った背景には、経済の低迷とトランプ次期米政権での米中対立激化への警戒感がある。日系企業から歓迎の声が出ている一方で、中国各地で相次ぐ殺傷事件への懸念から、観光需要の早期回復は見通せていない。 「いい意味でサプライズだった」。日中外交筋はこう指摘する。中国側は、再開の条件としてビザ免除などの「対等な措置」をこれまで求めてきたが、日本側が応じない中での前のめりの再開となった。 中国政府はコロナ禍収束後、欧州や東南アジアなどをビザ免除の対象国としてきた。今月1日に韓国などの追加を発表して約30カ国となったが、「北京の韓国大使館も把握していなかった」(韓国メディア)ほど急だった。中国の景気悪化などを背景に海外からの対中投資意欲が減退しており、中国政府はそれに歯止めをかける狙いとみられる。 「素晴らしいニュースだ」。中国の観光業界関係者の声は弾む。観光地の一部は国内客であふれているものの、割引合戦で利幅は縮小しているという。この関係者は「外国人客は消費額が大きく、売り上げ増につながる」と期待する。 免除前だと、ビザは申請から発給までに数週間を要してきた。福岡県内にある商社の役員は「早速12月に上海で商談の予定が入った。日程調整が格段にしやすい」と歓迎。中国に複数の生産拠点を置く衛生陶器大手のTOTO(北九州市)は「人の往来が増えることで観光や経済の活性化、文化交流などがより発展すれば、両国に有益になる」とコメントした。 ◆ ◆ ただ、相次ぐ殺傷事件などが足かせとなりそうだ。 広東省深圳で9月、日本人学校に通う男子児童が刺殺され、日本政府は中国側に動機を含めた実態解明を求めているが、明確な回答はない。中国当局はスパイ容疑で邦人を相次いで拘束。不特定多数を狙った重大事件も相次いでおり、社会に不安が広がっている。 日本の旅行会社の関係者は「各社がキャンペーンを実施するなどして観光客は一定程度回復するだろうが、コロナ禍前の水準まで戻るかどうかは見通せない」と話している。 中国旅行に強みがある福岡市内の旅行会社は「円安が響き、値頃感があったコロナ禍前よりも物価が高い。免除発表後の問い合わせは少ない」と明かす。訪中客が徐々に増え、交流サイト(SNS)などで良い情報が広まれば「ネガティブな印象が払拭されていくはず」とし、中国ファンが多い中高年層向けの旅行商品を増やす考えだ。 出発口の福岡空港では、第2滑走路の供用開始を来春に控え、中国航路の回復も見込まれる。運営する福岡国際空港(FIAC、同市)は「アウトバウンド(日本人の海外旅行)の回復を期待したい」という。 在福岡中国総領事館の楊慶東総領事は29日、鹿児島市で開いた記者会見で、「コロナ禍前の水準にいつ頃戻るのかは予測しにくい」とする一方で、「中国の大手旅行会社によると、日本と中国を結ぶ直行便は現在、コロナ禍前の75%まで回復している」と説明。今後は「中国に行く日本人は確実に増えていくはずだ。一日も早くコロナ禍前の水準に交流が戻ることを期待している」と話した。 (北京・伊藤完司、木村知寛、田中良治) ◆短期ビザ免除の再開 中国政府が再開した短期滞在ビザの免除は当面、来年末までの措置となる。コロナ禍前まで「15日以内」だった滞在可能期間は今回「30日以内」に延長された。日本は以前から中国人へのビザ免除はしておらず、今も続いている。