【療育の専門家がレクチャー】発達障害のある子どもには家でできる「お手伝い療育」がおすすめ。食器をさげるお手伝いから、慎重さが学べる
家事のお手伝いで期待できる効果とは
発達障害のある子どもの療育に携わってこられた言語聴覚士・社会福祉士の原 哲也先生が、家事のお手伝いを通じて行う療育をご紹介します。子どもの自尊心を育てながら、家族も喜ぶ「お手伝い療育」。今回のテーマは「食器さげ」です。 ■手と指を使うことが脳の発達をうながす 脳は、五感で感じた刺激をキャッチして認識し、判断し、行動するという、一連のプロセスを繰り返す中で発達していきます。 感覚器官の中で特に手と指は、感じ取った情報に応じて「外界に働きかけることができる」という点で特異です。目や耳などではそうはいきません。外界に対して適切に働きかけるために、手と指には多くの神経が集まっています。そのおかげで、ものを触った時の感触や温度の微妙な違いを感じ取れるのです。 そして、その微妙な違いに応じて手と指が微妙な力加減で外界に働きかけられるように、大脳の実に3分の1が手と指のコントロールに割り当てられています。 手と指で、ものの感触や温度などの微妙な差を感じ取り、それに応じて微妙な力加減をして外界に働きかけることができます。脳はこの過程でフル回転し、それを繰り返すことで発達していきます。 ■家事で手指を使うことは、書字や道具をつかうことにつながる 太古の昔から、人は手と指を使って道具を作り、自然を切り拓き、衣食住に必要なものを作ってきました。生活の機械化・自動化によって使い方は変わってきましたが、今なお、手と指を使うことは脳の発達を促し、人が生きていく上で欠くべからざることなのです。 昔は遊びの中でも否応なく手と指を使いました。手探りで枝をつかんで木登りをし、石を選んで拾い上げて川で水切りをし、つぶさないように力加減をしながらバッタを捕まえる。手と指を使わなければ遊べなかったのです。 しかし今はどうでしょうか。公園で遊ぶ子どもは減り、遊びと言えばゲームや動画を見ることが中心のように思えます。そこにあるのはほんの少しの目と指先の動きだけ。手と指の出番はほとんどありません。 子どもの発達における手と指を使うことの意味を考えたとき、この状況は由々しきことのように私には思えます。だから今こそ「家事のお手伝い」なのです。洗濯物をたたむ、雑巾で拭く、靴をそろえる…など、家事では手と指をふんだんに使います。手と指を使うことは脳を使うことであり、脳の発達につながります。 家事の中で手と指を使う経験を積み、自由に使いこなせるようになることは、書字やさまざまな道具を使う作業ができることにつながります。そういう意味でもぜひ、「お手伝い療育」に取り組んでほしいと思うのです。