大学がアフガン人元留学生を「自腹」で受け入れ 来日前から支援、地元企業に就職【あなたの隣に住む「難民」④】
事務所で昼食を取ろうとしていた時、外で物音がして、同僚が叫んだ。「逃げろ!」 「日本での生活は地獄になるよ」アフガンで日本のために働いた大使館の現地職員、外務省が厄介払い?
イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの政権を再び奪取した2021年8月15日。「全てが変わった」とヌーリ・ジャムシドさん(34)は振り返る。(共同通信編集委員=原真) ▽「命の危険がある」 宮崎市の宮崎大に留学後、アフガンの首都カブールの動物園で獣医師として働いていたが、解雇された。「海外とつながりのある人や政府機関で働いていた人をタリバンは嫌う。命の危険がある」。留学時の指導教員だった同大の平井卓哉教授に、メールで助けを求めた。 宮崎大は研究員としての受け入れを決定。ヌーリさんは幼い子ども2人と妻と共に、隣国イラン経由で22年4月に来日した。同大で勤務しながら日本語を学んだが、留学中は主に英語でコミュニケーションを取っていたため、流ちょうには話せない。就職には、言葉の壁が立ちはだかった。 そんな折、イスラム教の戒律に沿う「ハラル認証」の食肉処理施設が宮崎県西都市に建設されると報道された。平井教授は、宮崎大と地域振興の連携協定を結んでいる同市を通じて、施主の有田牧畜産業に連絡を取る。
同社は黒毛和牛の生産から加工、販売までを手がけており、イスラム教徒の働き手を求めていた。23年4月に、ヌーリさんと、同じ元宮崎大留学生でアフガン農務省幹部だったオルヤ・ラフィウラーさん(39)を採用した。 ▽日本政府の支援なく 有田牧畜産業の有田米増社長は「ぴったりの人材が見つかった」と喜ぶ。「会社の業務を一通り経験した上で、ハラル食材の輸出に向け、営業や通訳で活躍してもらいたい」 現在、ヌーリさんは調理部門でハンバーグを焼き、オルヤさんは牛舎で牛の世話をする。畜産が専門のオルヤさんは「とても幸せ」と笑顔を見せながら、「いつかは母国に帰って、人々に奉仕したい」と話す。一方、ヌーリさんは強調する。「家族のために頑張る。タリバン政権下では教育を受けられない。できるだけ長く日本に住んで、子どもたちを大学に行かせたい」 タリバン復権後、日本政府は在アフガン日本大使館の現地職員や家族ら約400人を国費で日本に避難させ、200人余りを難民認定した。だが、政府の支援が不十分だとして帰国したり、欧米に渡ったりした人も少なくない。これに対し、来日した元留学生ら400人以上には、政府ではなく、大学や自治体などが仕事や住まいを提供している。
宮崎大はアフガン人元留学生計7人を受け入れ、大学の基金や研究室の予算で1年間、給与を支払うなど、自腹で支えてきた。日本大使館現地職員らと違い、ヌーリさんやオルヤさんには政府の支援は全くない。ウクライナ避難民への手厚い政府支援と比べても、格差は著しい。 平井教授は訴える。「日本語や就職、大家族の生活など、国からの支援があってほしい」