「白目の面積を大きくする整形手術を受けた」37歳女性がお化け屋敷で“驚かせること”に人生を賭けるまで
「驚かせる」うえで喜びを感じる瞬間は…
わっと驚かせる。たったその一瞬に賭ける今出氏の思いとは、どのようなものか。 「私は人が驚いているのを見て、あるいは自分が人を驚かせて、そこに喜びを感じているわけではないんです。お化け屋敷にみんなで行き、わかっているのに驚いてしまう圧巻を味わってほしい。きっとそこには隣に家族だったり恋人だったり友人だったりがいるはずで、その一瞬一瞬が思い出になっていくと思うんです。 友だち同士で入って、みんな怖いのに我慢する男子学生。泣いちゃった子どもに『お父さんは強いから大丈夫だぞ』と話しかけるお父さん。抱き合って出口から出てくるカップル――ひとりひとりと話すわけではないけれど、その人たちの思い出のお手伝いをさせていただいているようで、この仕事が大好きです」
「白目の面積」を大きく見せるために整形手術を受けた
だとすれば、今出氏は恐怖の種となる死者に対しても、こんな哲学をもって仕事に向き合う。 「『お化けを商売道具にして、呪われたりしないの?』とよく聞かれます(笑)。ただ、私の考えはこうです。もし自分が幽霊の立場だとしたら、自分たちを茶化したり馬鹿にしたりして利用している人間のことは許せませんが、こっちが引くほど本気で取り組んでいたらむしろ応援したいと思うはずなんです。私はホラーアクターの子たちにも、『必ず本気で演じなさい』と言うようにしています。人を驚かせることは、そんなに浅い話ではありません。本気で取り組むことで、生きている人はもちろん、亡くなった人も驚くような演技を見せたいと思っています」 今出氏の場合、すでにこんな驚きの実践を行っている。 「黒目の上にある白目の面積が大きいと、お化けのように見えるんですよ。私はもともと白目の面積が少ないので、大きく見せるために整形しました。整形外科医にも、『美容のためではありません。お化けに近づきたいんです』とお願いしました。きっと困ったでしょうね(笑)」 お化け役が客と目を合わせるのは、時間にして1秒もないだろう。その刹那のためだけに、今出氏は労を厭わず変身する。恐怖を愉しむことができる動物は、おそらく人間だけ。人間だけに与えられた特権的な愉悦を高いレベルに昇華させ、今出氏はこれからも人々の驚嘆の現場に立ち続ける。 <取材・文/黒島暁生> 【黒島暁生】 ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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