錦織圭に2019年覚醒予感。混沌テニス界を勝ち抜く進化とは?
「今年の圭は、ビッグタイトルを取るんじゃないでしょうか」 そんな予言めいた言葉を口にしたのは、2013年から昨年までの6年間、パーソナルトレーナーとして錦織圭にツアー帯同した中尾公一氏だ。ケガをしにくい身体になった――それが、最大の理由である。 「身体が強くなり、痛みが出なかったのは今まで無かったこと」 復帰のシーズンを戦い終えた昨年11月末、錦織は1月末から始まった約11ヶ月間の戦いを振り返り、自分でも驚いたかのように、そう言った。 昨年の錦織の戦績は、43勝21敗。試合の棄権やキャンセル等は、4月末のバルセロナ・オープンの、わずか1試合を数えるのみである。それも、前週のモンテカルロ・マスターズで、手首に不安を抱えたまま6試合戦っていたことを思えば、やむなきこと。特筆すべきは、疲労が蓄積するシーズン後半の3ヶ月間で、25試合を戦った実績だ。これはトップ20の選手の中でも、最も多い試合数である。 先出の中尾氏は、この「ケガの少ない身体」は、6年間かけた取り組みの一つの到達点だという。 2012年……この年の錦織は、全豪オープンベスト8やジャパンオープン優勝などの結果を残し躍進のシーズンを送るも、全仏オープンの欠場などもあり、試合数は55(37勝18敗)に留まっていた。翌年も、戦績や試合数は横ばいの36勝19敗。それが2014年からは68試合(54勝14敗)、2015年の70試合(54勝16敗)、そして2016年は79試合(58試合21敗)と試合数を年々伸ばしている。これは、ケガの原因となる部位の強化と、それに伴う身体の使い方改善の帰結だった。 ただその中で飛び出したのが、2017年8月の、右手首腱の脱臼だ。これは、サーブの練習中に彼を襲った、一つの動きを起点とするアクシデント的な外傷ではある。だがその主たる原因は、手首に負荷の掛かるサーブのフォームにあった。 年間の多くの時間を試合と移動に費やすテニス選手にとって、サーブフォームなど技術面の大掛かりな改善に取り組むのは、簡単なことではない。勝っている時には、なおのことだ。しかし、テニス選手の生命線とも言える手首を負傷し長期離脱を余儀なくされた時、サーブの抜本的改革が必須であることは、本人も含めたチーム全体の共通認識となる。そこで、身体の捻りや腕のしなりを利した、ケガの再発防止を最優先とするフォームの完成を彼らは目指した。 その新たなサーブフォームは、単に手首への負担を軽減するのみならず、身体全体への負荷を減らしたと中尾氏は言う。 当然ながら身体の個々の部位は、全てが精緻に連動している。ましてやサーブは、1試合で100本ほど、5セットマッチともなれば200本以上打つのだから、その反復運動が身体に与えるダメージは想像に難くない。錦織が昨年……特にシーズン後半になってとみに実感した「痛みが出なかった」身体は、トレーニングの賜物であると同時に、サーブフォームの改善がもたらした産物であるという。 さらにはフォーム改善により、サーブそのものが向上したのも間違いない。 シーズン開幕戦のブリスベン国際では、安定したサービスゲームを武器に決勝進出。今日6日、3年ぶりとなるツアー優勝を狙うが、準々決勝では81%の高確率でファーストサーブを入れ、本人も「ここ数年で最高にサーブの良い試合だった」と自画自賛の言葉を残した。