『ラブソングができるまで』最高のロマンティック・コメディにして最高のミュージカル映画
ヒュー・グラントとドリュー・バリモアが起こした化学反応
ロマンティック・コメディには、主演ふたりの相性の良さが欠かせない。その点、『ラブソングができるまで』のコンビは最高の組み合わせだ。イギリス出身のヒュー・グラントは90年代のラブコメ映画を代表する俳優だが、本作がつくられた2000年代には40代後半に差し掛かっていて、役のなかでも中年という年齢を感じさせる役を多く演じるようになっていた。のちに彼は、明確な時期は指定していないものの、ラブコメ映画にばかり起用される時期があまりにも長く続いたことで、一時期自分が型に嵌められているように感じ苦しんでいたと告白している。そんな彼にとって、かつて流行った懐メロをひたすら再現しつづけたあと、新たなキャリアを築こうと一念発起するアレックス役は、ぴったりだったはず。 一方ソフィー役のドリュー・バリモアは、人気子役としてハリウッドで大活躍したものの、10代にしてドラッグやアルコールの問題を抱え、苦労を重ねた人でもある。成長した彼女は、自分に悪影響を与えた母親の元を離れ、自力でキャリアの復活を遂げる。自ら製作を務めた『25年目のキス』(99 監督:ラジャ・ゴズネル)や、『チャーリーズ・エンジェル』(00 監督:マックG)などの大ヒット作に出演し、コメディ映画を中心に活躍。大きな挫折を経験後、もう一度自分の力で人生を取り戻したドリュー・バリモアもまた、セカンド・チャンスを描くこの物語にハマり役だった。 人の話を聞かず、いつも自分の話ばかりを矢継ぎ早に繰り広げるソフィーは、スクリューボールコメディのヒロインの名に相応しい。そんな彼女に面食らいながらも、その才能を利用しようとあれこれ画策するアレックス。凸凹コンビの息の合った掛け合いがとにかく楽しい。ぺちゃくちゃとおしゃべりをしながら、大事な商売道具であるピアノの上に無造作に荷物を置くソフィーと、そのたびに横から必死で荷物を下ろすアレックスのやりとりが繰り返される場面など、まるでキャサリン・ヘプバーンとケイリー・グラントの掛け合いを見ているようだ。 何より素晴らしいのは、両者が演じるアレックスとソフィーが、決して陰鬱さをまとっていないこと。もちろん彼らはふたりとも大きな傷を抱え、そこから立ち直れずにいる失意の人だ。でもアレックスは、自分は「元スター」だと自嘲しながらも、昔のファンを相手にパフォーマンスをすることを嫌がったりはしていない。少ない観客を前に精一杯ステージをこなし、ファンサービスに努める彼はどこまでも明るい。ソフィーも、過去のトラウマを抱えてはいるが、人生を楽しむことをやめていない。つねに陽気さをまとったふたりの奏でる軽妙なリズムが、完璧なラブソングをつくりあげる。 主演ふたりを取り囲む魅力的な友人や家族たちの存在も忘れてはいけない。ソフィの姉で、アレックスの熱狂的なファンのローンダ(クリステン・ジョンストン)。アレックスのマネージャーで彼のよき理解者のクリス(ブラッド・ギャレット)。そしてブリトニー・スピアーズを彷彿とさせるポップスターのコーラ(ヘイリー・ベネット)。ラブコメ映画を成立させるには、個性豊かな共演者たちが必要不可欠だ。