『ラブソングができるまで』最高のロマンティック・コメディにして最高のミュージカル映画
現代のニューヨークを舞台にしたミュージカル
ニューヨークのあちこちで鳴り響く様々な音楽に魅了される本作だが、要となるのは、やはりアレックスとソフィーの曲作り風景。アレックスがピアノの前に、ソフィーはピアノの近くに移動させたソファに座ると、ときおり仮眠をし、まずいコーヒーを飲みながら、ふたりは互いに曲と歌詞を交換しては、徐々に歌を完成させていく。その様子はまるで学生の合宿風景のよう。メロディと歌詞が完成すると、今度はデモテープのレコーディング。最初は自信なさげに歌っていたソフィーの小さな声が徐々にしっかりした歌声に変わり、アレックスの声と重なり合う。たくさん会話をし、ときに反発し合いながら、ひとつの作品をつくりあげる。共同作業のなかで、ふたりの関係は自然と親密さを増してくる。 こうして最高のラブソングが完成するが、ふたりの前にはまたも暗雲が垂れ込める。ソフィーは、かつて自分を傷つけたスローンと再会。あれほど酷い仕打ちを受けたのに、何も言い返せない自分にすっかり落ち込んでしまう。アレックスは、そんなソフィーを懸命に励ますが、自分のことになると急に弱気になる。ふたりでつくった「Way Back Into Love」がまったく意図と違う編曲をされズタズタにされても、これでお金がもらえるならと何も言えない。そんなアレックスに、ソフィーは堂々と不満をぶつける。どちらも、相手のことなら強気で正論を言えるのに、自分のこととなると勇気が出ない。苛立つアレックスはソフィーに暴言を吐き、ふたりの仲は決定的に壊れてしまう。 思うようには進まないふたりの関係だが、王道のロマンティック・コメディの終わりは、もちろんハッピーエンド。これは現代のニューヨークを舞台にしたミュージカル映画でもあるのだから、当然、最大の見せ場は演奏場面となる。コーラのコンサートが開かれる当日、ふたりを取り巻くすべての登場人物が勢揃いし(ただし、悪役のスローンだけは別)、アレックスがピアノの前に座った瞬間、最高のショーが幕を開ける。奏でられる音楽に後押しされ、アレックスとソフィは未来に向けて新たな一歩を踏み出していく。 文:月永理絵 映画ライター、編集者。雑誌『映画横丁』編集人。『朝日新聞』『メトロポリターナ』『週刊文春』『i-D JAPAN』等で映画評やコラム、取材記事を執筆。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、映画パンフレットの編集も手がける。WEB番組「活弁シネマ倶楽部」でMCを担当中。 eigasakaba.net (c)Photofest / Getty Images
月永理絵