「行ったり来たりは本当にやめてほしい」トヨタとハースの業務提携の背後でかわされた、モリゾウと小松代表の本音のぶつかり合い
世界を舞台に戦う2人の本音
6月に初めて小松代表に会った豊田会長が驚いたのは、その実直な人柄だった。 「お会いしたとき『本当に今日、初めてでしたっけ? 前にどこかでお話ししませんでしたっけ? 』と思うくらい、小松代表が部屋に入ってきた途端にいろいろな話が進みました」 小松代表からは、「(モータースポーツ)文化を作っていかなきゃいけないのに、日本のメーカーというのは行ったり来たりして……そういうことは本当にやめてほしい」と、トヨタのF1撤退に対する言及もあった。 「F1」や「撤退」という言葉がトヨタの中でタブーとなっていた中、本音で言い合える小松代表との会談で豊田会長はモリゾウとなって語り合っていた。 「ずっと昔から語り合っていた人とちょっと先の話をした。それが、私の正直な感覚だったと思います」 豊田会長は、今回の提携はハースのチーム代表が日本人だったからではないとも語った。 「小松さん自身、大きな夢を切り拓いていらっしゃる方ですが、その後ろには自由に夢を追いかけさせてくれたお父さまがいらしたとのことでした」 小松代表はベートーベン研究家として知られる父・雄一郎さんの息子として日本で生まれ、国際的な舞台で世界一を競う仕事に就きたいという憧れを少年時代から持っていた。そんなとき、89年と90年の鈴鹿でのアイルトン・セナとアラン・プロストの対決を見て、F1への思いを強めた。レースのエンジニアになって、いつの日かF1で戦いたいという目標を持った小松少年は、高校卒業後に渡英。イギリスの大学でエンジニアリングの基礎を学んだ後、F1でエンジニアとしてレースを戦う夢を叶え、今年からハースF1のチーム代表に就任した。
子どもたちの未来のために
豊田会長は、そんな小松代表の生き様に惹かれたのかもしれない。 「小松さんも私も、『今度はわれわれが子どもたちに夢を追いかけさせてあげられる“お父さん”になりたい』という気持ちを共有しました。小松さん、本当にありがとうございます」 共に世界を舞台に戦っているふたりのトップ。世界というのは、私たちが思っているより狭いのかもしれない。この提携を機に海外を身近に感じ、日本を飛び出して世界を目指す若者がひとりでも多く出てくることを願いたい。
(「F1ピットストップ」尾張正博 = 文)
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