【闘病】頻繁につまずくのは「シャルコー・マリー・トゥース病」のせいだった
ようやく確定診断を受けたが喪失体験に襲われた19歳
編集部: 結局、CMTの確定診断はどのように受けたのですか? 山田先生: 19歳のとき、作業療法士養成校の講師(神経内科医)から検査を受けてみるよう勧められ、腰椎穿刺、神経生検、遺伝カウンセリング、遺伝子検査などの検査を通じて、CMTの確定診断を受けました。発症から15年以上経過していましたね。 編集部: 病気が判明したときの心境について教えてください。 山田先生: 幼少期には「生まれつきだから仕方ない」と思い、成長するとともにこの身体と折り合いをつけてきたつもりでしたが、この確定診断を機に「今までの人生は嘘でした」と言われたような気分になりました。 人生を否定され積み上げてきた価値観が崩れ去り、大きな喪失感が襲ってきたんです。将来への希望や目標も失いかけることになりました。 編集部: 確定診断後の治療はどうなりましたか? 山田先生: 根本的な治療法や予防的な薬もない疾患なので、症状に合わせた対症療法的な治療をすることになると説明を受けました。主に、足や手の状態に合わせたリハビリ(理学療法と作業療法)で、機能の維持、改善を目指しました。 CMTのリハビリには、当時エビデンスがほとんどなく、担当の療法士さんは手探りで介入を続けてくれました。 足の症状が特徴的ですが、手指の麻痺が進行していたこともあり、日常生活や就労場面で、身体の楽な使い方や工夫を一緒に考えてもらえたことは、とてもありがたかったです。 編集部: 確定診断後、生活にどのような変化がありましたか? 山田先生: 身体の不自由さは徐々に進んでいき、身体の変化よりも心が乱れたことで、しばらく生活が荒れていましたので、生活を整えようと工夫しました。「生まれつき障害のある自分」から「進行性で遺伝性の神経難病の自分」という大きな価値観の転換を図る必要がありました。
気持ちを整理するために誰かとつながっていく
編集部: 気持ちを切り替えるきっかけなどはありましたか? 山田先生: 確定診断の少し後(2000年頃)に「ほかのCMT患者とつながりたい」と思い立ち、CMTの患者や家族が集えるようにインターネット上に掲示板を開設しました。そこで、小さな交流と情報交換を始めたのです。 徐々に人が集まり、オフ会やミーティングを繰り返すうちに、CMTの研究班とも協働するようになったのです。作業療法士であり、いち患者でもある自分が、CMTの研究や患者会運営に役立てるのではないかと感じていくようになりました。 作業療法士の仕事と、患者会の任務、日常生活を通して「新しい価値観の再獲得」をしていったのです。 編集部: 治療中の心の支えはなんでしたか? 山田先生: 人とのつながりがとても大切だと感じています。幼少期は、献身的な母をはじめ、家族のサポートが本当にありがたかったです。ほかにも、そばに居てくれる幼馴染たちも、心の支えでした。 そして、患者会でつながった仲間たちによるピアサポートが、闘病生活だけでなく、生活、仕事、結婚、出産、育児に至るまで、ずっと勇気と希望を与えてくれているのです。 何よりも、妻と娘たちがありのままの自分を受け入れ、当たり前に存在を肯定してくれているのが一番の心の支えになっています。 編集部: 現在の体調について教えてください。 山田先生: 現在42歳ですが、30代半ばから手足の麻痺は急速に進行しており、呼吸筋の力も弱くなってきています。CMTの中でも呼吸筋の麻痺がでるタイプもあるのです。歩行はインソールとカーボン製の短下肢装具を着用し、ロフストランド杖を使用しています。 長時間や長距離の移動の際は、車椅子を利用して、体力を温存することもあります。握力はわずかしかなく、巧緻性もなくなってきました。日常生活や仕事では、自助具や共用品を活用したり、上手な身体の使い方をしたり、こまめな休息を心掛けたりして生活しています。 まだ、CMTに対する根本的な治療は確立されていませんので、定期的なリハビリとロボットスーツHALでのリハビリを通して身体機能や生活能力の維持を図っています。 編集部: あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。 山田先生: CMTは、軽症であればなかなか見た目で判断してもらうことが難しく、自身の症状をうまく説明できないでいることも多いです。 そして「身体の動かしにくさ」や「わかってもらいにくさ」を抱えて生活している一方で、CMTと付き合いながらも生活は続いていくので、CMT患者が感じているモヤモヤが解消されることはなかなかないと思います。 「モヤモヤしていること」だけでも受け止めていてもらえると、少しだけ生きやすいのかもしれません。 編集部:医療従事者に望むことはありますか? 山田先生: CMTは治療やリハビリにおいて、そのエビデンスが明確ではありません。しかしながら、世界的に研究が進んでいるのは確かで、リハビリの内容も以前とは違う方針になっています。 私たち患者や家族は「もしかしたら効果が期待できるかもしれない薬が研究されている」「以前と違って、最近の研究では積極的に運動をした方がいい」このような、希望を持てる医師の言葉や最新の情報を求めています。 医師の一言や態度で、気持ちが整うこともあります。医療はとても急速に進化しているため、CMT患者と医師のつながりは、ぜひとも途切れることなく、つながっておいてほしいです。 編集部: 最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。 山田先生: 「生きづらさを感じる」のは、「難病だから」「障害があるから」とか「自分自身のせい」ではないと思います。身体や心の問題も、もちろん抱えていると思いますが「自分らしい生き方ができない」という不自由さは「社会」の方にもたくさんの原因があるのだと思います。 どんな難病や障害があろうとも、自分がやりたいことをやれて、行きたいところに行き、食べたいものを食べ、会いたい人に会う。こんな当たり前なことがかなうような社会構造になっていけばいいなと願っています。