ラリージャパンでアルピーヌA110RGTに同乗試乗! まったく別モノかと思ったら量産モデルに通じる走りだった
鋭い挙動だが市販車の面影も感じられる
フュマル氏のドライブで、まずは一般道へ。テストSSまではけっこう距離があるのだとか。確かにガシャン、ギュイーンといった駆動ノイズが容赦なく車内に侵入してくるが、多少ノーマル仕様より視線は低いとはいえ、乗り心地が意外なほど跳ねなくて快適であることに驚かされる。エンジンもほぼノーマルだから気難しさは一切なく、1速発進時に左足でクラッチ操作をしている以外は、ナビシート側にいるとはいえ驚くほどロードカーに近い感触だった。 やがてSS入口に着いて、マーシャルが我々の安全装備を確認して、前車との距離を保つよう指示があったあと、いよいよスタート。ハーフウエットどころか、しっとり濡れて枯葉もけっこう脇に積もったまま、そんなコンディションの奥三河の農道で、もちろんいきなりフル加速だ。ちなみにABSは12段階中の4、トラクションコントロールは5段階中の2と、いずれも弱めのセッティングだった。 ラリー用のローギヤードがものをいい、エンジンの吹き上がりが鋭い。いくら内装材を剥いで、鋳鉄のロールケージやウレタンフォームで埋めたドアパネルを張っているとはいえ、1080kgに収まった車体は弾かれたようにコーナーに進入していく。ステアリングをほんのわずかだけコーナーと逆方向、つまりフェイントをかけたのと同時にブレーキで前荷重にすると、リヤがスッと流れ始める。エイペックスのずいぶんと手前から見事なスライド態勢を維持し、カウンターを当てながら斜め前方に、グイグイとマシンが加速していく。お手本のようなブレーキング&慣性ドリフトだ。 ときどき、長いストレートじみた区間では速度がのるが、余裕をもってブレーキングしては、再びスライドからエイペックスをピタリとかすめるようなコーナリングが続く。ステアリング舵角は大きくても90度以上は使わない様子で、コーナーからの脱出時にむしろアウト側へステアリングを切りながら加速している感覚だ。あれだけタイトコーナーが続いても、一度たりともフュマル氏が手もとをもち変えることはなかった。 「氷の上みたいにすごく滑るコンディションだから、グリップの範囲内で走らせるよりも、こっち(滑らせる)のほうが断然、マージンがある状態で速く走れるんだ。前回、フランスで走ったときのセッティングがそのまま、ここのコースに相性がいいみたいだね」。 そうドライバーのフュマル氏は走りながら、こともなげに説明する。A110RGTがリヤを沈めながら、わずかにカウンターを当てた状態で立ち上がって来る姿はさぞかしスペクタクルだろうなと、車内にいながらにして想像できた。 それにしても強烈に印象に残ったのは、挙動の鋭さは数段上とはいえ、その走行感覚には一連のA110の市販バージョンに通底するものが、はっきり感じられたことだ。しなやかに地面を捉え続けては、積極的な荷重移動で躍動感たっぷりに走る感覚は、シャシー・アルピーヌに似ている。制動時から加速、切り返しまで過渡特性の収まりが抜群で、素早く質の高いボディコントロールはA110Rのシャシー・ラディカルを思い起こさせる。 もちろんWRCのトップカテゴリーの、効率に優れた4WDマシンがタイムでは上まわる。だが、モータースポーツの楽しさも「相対的なスピード」のなかで捉え直されつつあることが、今回の同乗試乗を通じて確信できた。フランス国内のラリー選手権に、往年の名手たちがA110RGTあるいは空力をさらに磨いたA110GT+を駆って、プライベーター参戦するほど盛り上がっているのは、乗り手と観客の要求にこのマシンが重なり合うところがあるからなのだ。 ちなみにA110RGTの価格は18万5000ユーロ(税抜3000万円強)。プライベーター向けのモータースポーツ専用車両として、とくに高過ぎる価格ではないのだ。
南陽一浩