高知大ベンチャー、AIで農業の生産性向上 独自モデル開発、生産から輸送まで負担軽減
高知大発ベンチャー企業が人工知能(AI)を使って農作物の生産から輸送まで効率を大幅に引き上げる実証実験を始めた。独自のモデルを活用する。国内の農家はこの20年で半減し高齢化が著しい。将来にわたり需要を満たすため、生産性向上が喫緊の課題となっている。責任者は「食料自給率の低下に危機感がある。AIで農家の金銭的、体力的負担を減らしたい」と意欲を燃やす。(共同通信=鈴田卓) ▽数理モデル 実験を手がけるのは、高知IoPプラス(高知県南国市)。農学とデータサイエンスの融合を目指す高知大IoP共創センターの岩尾忠重(いわお・ただしげ)教授(58)=工学=が技術責任者を務める。 岩尾さんは富士通出身の研究者。2021年に高知大に着任してから農家の苦労を知り問題意識を持った。2023年、農作物の収穫量を高精度で予測できる数理モデルを確立した。作物の生育は果実が大きくなる「生殖成長」と、茎や根が育つ「栄養成長」がある。二つの成長が同時に進み、環境によってそれぞれ異なる反応を示すため生育状態の予測が難しかった。
当初は農学系研究者との会話もままならなかったが、植物の生態を理解し予測に成功する。独自の数理モデルを基にした農家や農協向けのシステムと、別のモデルを使った物流会社向けシステムを開発した。 ▽無駄の削減 農家用はビニールハウス内に設置したセンサーから二酸化炭素(CO2)濃度や日射量、葉の画像といったデータを取得。光合成を促進する適切な室温とCO2濃度を計算し、専用サイトに表示する。このほか農作物を各市場に振り分ける作業の省人化システムも開発し、今後実証を検討する。取引単価の向上や廃棄ロス削減を見込む。 一方、農作物の輸送は出荷当日まで収穫量が読めない中で事前にトラックを手配する必要がある。収穫が遅れると車両が余っていた。システムの導入でこうした無駄を省き、燃料費を3割削減できるという。2025年2月から商用化する予定だ。 農林水産省が2024年6月に発表した24年農業構造動態調査によると、個人農家や法人などの「農業経営体」の数は約88万。200万を超えていた2005年から減少が続く。農業を主な仕事にする「基幹的農業従事者」数は60歳以上が8割で高齢化が進んでいる。
高知県によると、県内の新規就農者数は2020年以降、約260人から約210人に減った。資材価格高騰による初期投資の負担が要因とみられる。県の担当者は若い世代に向けた農業のイメージ刷新を課題に挙げ「機械化やデータ活用など最新の農業を知ってもらいたい」と呼びかけている。