《追及レポート》何も知らない利用者が損をしている【火葬場のタブー】「キックバック」「割引利権」など”利権構造”うずまく不公平な因習の実態
「日本の古い商習慣だから」で片付けられる問題ではない。公共インフラの側面を持つ「火葬場」は、利用者は誰でも平等、公平にサービスを受けられることが大切だが、“利権構造”がそれらを妨害している。損をするのは利用者ばかりか――。「値上げ批判」に隠された既得権益の数々で、何も知らない利用者が損をするという「火葬場のタブー」を追及する。 【写真】火葬料金の高騰について陳情が来ているという都民ファーストの会・小池都知事
利用者の目が届かないところで、お金にまつわる歪な因習が残っている
約13万7000人。これは昨年、東京都内で死亡した人数だ。壮麗な葬儀が行われることもあれば、コロナ禍を経て、最近では家族葬などの小規模な葬儀が流行している。身寄りのない人の孤独死であれば、葬儀はなく、ただ荼毘に付されるだけということもある。 しかし、どのように弔いがされようが、最後は誰もが「火葬」され、骨になって旅立つことは変わらない。 「日本では古来より、“死は穢れである”という考え方が根強く、いまでも葬儀に参列した後は”塩で体を清める”という行為が広く行われている通り、死にまつわることは、できるだけ遠ざけたいものなのです。 近年は映画『おくりびと』などの影響で、葬祭業への忌避感はかなり薄まっています。しかし、こと火葬場の中で行われていることについては、社会に広く理解されているというわけではありません。すべての人がいずれは“訪れる場所”なのに。 実は、その火葬場では、利用者の目が届かないところで、お金にまつわる歪な因習が残っていることも、まったく知られていないのです」(都内葬儀業関係者)
「9万円」という数字が独り歩き
全国的に見れば、ほとんどの火葬場が「公営」だ。ただ、江戸時代に爆発的なスピードで人口が増えた東京ではその歴史的な経緯により、自治体による火葬場の整備が間に合わなかったため、多くの火葬場の運営を民間企業が担っている。そんな都内の火葬場では「火葬料金」が最近になって価格改定が繰り返され、話題になっている。 「ここ数年、ウクライナ戦争や円安の影響による燃料費の高騰などを理由に、何度か実質的な値上げが行われ、都内の民間の火葬業者3社では火葬料金は9万円になっています。 公営の火葬場がメインの他県では、火葬料金は無料か、有料でも3000円から1万円程度。それに比べると、都内の火葬料金は明らかに突出しているといえます」(都政担当記者) 祖父母や両親の施主を経験した人ならわかるだろうが、火葬場の窓口に、自分で火葬料金を支払うケースはまれだ。一般には、葬祭業者が喪家から「葬儀料金一式」をパッケージで受け取って、その中から火葬場に支払われる。そのため、「火葬料金」と言われても、すぐにイメージがわく人は少ないだろうが、「東京の火葬料金は高すぎる」「民間の火葬業者がもうけすぎているのではないか」という批判が一部で上がっている。 「人件費や燃料代が高騰しているのは間違いないし、東京にある火葬場は都内の一等地に建つ民間施設なので、固定資産税も高額です。また、人口密集地にあるため、周辺住民への配慮や、滞りなく火葬を進めるための火葬技術の研究など、ほかの道府県にはない事情を抱えています。 公営であれば税金が投入されるので住民サービスとして採算度外視で運営できるが、東京の民間火葬業者は税金の補助を受けているわけではないので、然るべき料金になるのはやむを得ない。ただ、『9万円』という数字が独り歩きしている印象です」(都政関係者) ある都議はこう指摘する。 「現実として、都内火葬場の多くを運営する民間企業にまずお願いすべきことは、『永続的に運営してほしい』ということ。明日突然、廃業します、と言われたら東京は大混乱に陥る。火葬料金の設定は経営上の判断であり、行政が口出しするところではない。本当に口出ししたいのなら、公営火葬場を作るしかないでしょうが、それを受け入れる地域があるのか……」 ある都内の葬儀社経営者が声をひそめて明かす。 「火葬料金の値上げに対して“高い”と文句を言っているのは、遺族からパッケージ料金を受け取る葬祭業者でしょう。火葬代が上がったら、それだけ自分たちの取り分が減りますからね。 実は、葬祭業界では現金がやり取りされる因習や利権が存在します。特に都内の葬祭業者の約30%が加入し、政界にも大きな発言力を持つ『全東京葬祭業連合会』(全東葬連)系の同業組合は“既得権益”を握っているのです」