韓国「戒厳令・弾劾騒動」に至るまでの歴史を振り返る映画4選
<最近の韓国情勢をへの見方が深まる、しかもエンタメとしても文句なしに面白い映画を時事芸人のプチ鹿島さんが紹介します>
12月に韓国の「非常戒厳」が報じられてから、就寝前に韓国映画を何本もおさらいして過ごし、「今」と「過去」を深く考えることができた。 【動画】トランプの「髪型」がいつもと全然ちがう! スッキリさわやかな新ヘアスタイルに まずは日本では今年公開の『ソウルの春』(キム・ソンス監督)。 1979年10月26日、独裁者とも言われた韓国大統領が側近に暗殺された。すると、暗殺事件の捜査本部長に就いた保安司令官が12月12日にクーデターを決行。またも新しい軍事独裁への道が始まったのだ。「ソウルの春」は民主化を期待した国民にとって、ほんの一瞬の春だった。映画の公式サイトには「国民の4人に1人が鑑賞」とあるから、韓国でも若い世代は既に歴史となったこの事件に衝撃と興味を覚えたのだろう。 次に見たのは『タクシー運転手 約束は海を越えて』(チャン・フン監督、2017年)。今回の非常戒厳を受けて改めて見ると感じ入ることが多かった。『ソウルの春』でも描かれた保安司令官、全斗煥(チョン・ドゥファン)がクーデター翌年に「非常戒厳令拡大」を宣布し、民主化を求める市民を弾圧した光州事件が題材だ。 韓国人タクシー運転手は大金目当てにドイツ人記者を乗せて光州に潜入する。そこでの光景は想像を絶した。検問や情報統制で市民の虐殺を全く知らなかったからだ。 この作品では情報を伝える意義も考えさせられた。本来ならば知りたい情報は、現場へ行って自分で取材して確かめて納得すればいい。しかし皆忙しい。だから記者は情報を確認してくれる代理人だと私は考える。 ■為政者が暴走するとき、人々はどうすればいい? 最近「オールドメディア」への違和感をよく聞く。しかし既存メディアはまだ利用できるはずと私は考える。現場での取材で裏付け・発信を長年組織的にやっているからだ。情報が混沌としているときこそ、「オールド」の名にかけ歴史と伝統の力を発揮すべきでは? それにしても現場の最前線で仕事をする同作のドイツ人記者とコタツ記事を量産する現代の記者、その差は途方もない。 ここまで見たら『1987、ある闘いの真実』(チャン・ジュナン監督、2017年)もおさらいしたい。 同作は光州事件からの7年間を描く。取り調べを受けていた大学生が警察の拷問によって死亡。それを隠す公権力に対して新聞記者は真相究明に奮闘し、大学生の仲間たちも立ち上がり民主化闘争へ拡大していく。 今回の韓国の戒厳令で学ぶことは為政者が暴走・錯乱したときに、政治はもちろんメディアも市民も声を上げられるかどうかという点だ。韓国のメディアや市民は反応していた。映画で見てきたとおり、民主主義を勝ち取った歴史があるからだろう。 ■「酒を飲むと日本語になる」世代 最後に紹介したいのは、『KCIA 南山の部長たち』(ウ・ミンホ監督、2019年)。時系列ではこれまでの作品で最も古い。 1979年、大統領(モデルは朴正熙〔パク・チョンヒ〕)が情報機関KCIAの部長に射殺される。作中、大統領と部長が酒を飲むと、日本語になる。日本の植民地支配で育った世代という事実にハッとする。 年末年始にこれらの韓国映画を配信で見るのはいかがだろう。何よりエンタメとしても全て面白い。これ、大事だと思います。
プチ鹿島(時事芸人)