朝食は「パンより米」が正解である…92歳の現役栄養学者が実践する「ヨボヨボにならない最強の食事」を解説する
■日本人は葉酸とDHAの摂取量が十分ではない 1976年、私が翻訳を担当した『世界の長寿村 百歳の医学』(アレキサンダー・リーフ著、女子栄養大学出版部)。著者のリーフ教授はハーバード大学の医学部長で、同書執筆にあたり、長寿地域沖縄を調査しています。 その際、女子栄養大学出版部の岸朝子編集長(当時)も同行していますし、私は自治医科大学の学生たちと共に日本の長寿地域を調査しました。その後、私は西表島等の長寿の離島におけるDHA摂取の欧文論文を執筆するなど、長寿と食に関する研究をずっと続けてきました。 そして、現在の日本の栄養学の基準では、葉酸とDHAの摂取量が十分とは言えないのではないかと考えるようになりました。 私たちの研究では、葉酸は日本で推奨されている量の「240µg」では十分でなく、WHOが推奨している「400µg」であれば、認知症などの予防に効果があることがわかりました。 また、日本人の約6割は葉酸やDHAを不足しやすい遺伝子を持っていること、そして、“寿命の回数券”とも呼ばれる細胞内の「テロメア」の長さが葉酸とDHAを摂取することによって保たれることもわかってきました。 そうした一連の研究で私が辿り着いた結論は、健康長寿につながる食というのは、地域ごとの食生活、さらに遺伝子的な特徴によって左右されるということです。 そのうえでいえることは、日本食には塩分が多いなどの欠点もありますが、2013年にユネスコの無形文化財に登録された「和食」を、さらに健康に資する形で提案することは可能だということです。 ■「和食」を工夫すれば健康寿命を延ばせる 農林水産省は、ユネスコに登録された「和食」について、「南北に長く、四季が明確な日本には多様で豊かな自然があり、そこで生まれた食文化もまた、これに寄り添うように育まれてきました」と説明したうえで、サイトで4つの特徴を挙げています。 ---------- (1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重 日本の国土は南北に長く、海、山、里と表情豊かな自然が広がっているため、各地で地域に根差した多様な食材が用いられています。また、素材の味わいを活かす調理技術・調理道具が発達しています。 (2)健康的な食生活を支える栄養バランス 一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。また、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。 (3)自然の美しさや季節の移ろいの表現 食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。 (4)正月などの年中行事との密接な関わり 日本の食文化は、年中行事と密接に関わって育まれてきました。自然の恵みである「食」を分け合い、食の時間を共にすることで、家族や地域の絆を深めてきました。 ---------- 図表1の上は、スコアが高いほど、認知症や糖尿病などの疾患にかかりにくく、健康寿命が長いとされる「地中海食」の特徴です。そして、図表3の下が、日本食ピラミッドの提案になります。 日本食が「完璧」というわけではありませんが、本書でご紹介しているように、日本食をベースにしながら、遺伝子、年齢を考慮して、葉酸を積極的に摂取したり、魚料理を今以上に食べるようにすれば、健康寿命を延ばすことができると私は考えています。 本連載の第1回でも述べたように、私たちの食生活では葉酸が多く含まれている食べ物(例えば海苔や緑茶など)や、DHAを含む魚を食べる機会が減っています。まずは、手軽に摂取しやすい食品を活用していただくことをおすすめしたいと思います。