【独自】著者グループは架空? ベストセラー「反ワク本」に捏造疑惑浮上…製薬会社が調査結果公表へ
話題の「反ワク本」に捏造疑惑が持ち上がっている。 問題の書籍は、今年9月18日に出版された「私たちは売りたくない! “危ないワクチン”販売を命じられた製薬会社現役社員の慟哭」(方丈社)。出版元によると、発行部数は16万部、Amazon総合ランキング1位、12月中旬現在で7刷というヒット作だ。 【写真】元グラドル小出広美さんは日本最大規模の「反ワクチン団体」で活動 そのワケを本人に直撃 タイトルにある製薬会社とは、明治ホールディングス傘下のMeiji Seikaファルマ。昨年11月、世界に先駆けて新型コロナウイルス対応の次世代ワクチン「コスタイベ」(通称レプリコンワクチン)の製造販売承認を厚労省から受けた企業である。 Meiji Seikaファルマでは、若手社員が3年前に別のワクチンを接種した後に亡くなった。「それなのに新しいワクチンを売るのか」として、亡くなったKさんの名を冠した編集グループ「チームK」が社内有志で結成され、社員たちの反発があるとの触れ込みで出版された本が「私たちは売りたくない」だ。こんな一文が書かれている。 〈本書は突然亡くなった彼のことを忘れてはいけないと考える複数の現役社員で執筆しました〉 しかしこのほど、Meiji Seikaファルマが「編集チームは存在しなかった」とする驚きの調査結果を公表する意向であることが分かった。 悲壮な決意の「内部告発」の話題性で、発刊部数が少なかった当初は高額で転売されるほどだった「私たちは売りたくない」。その著者チームが存在しなかったとはどういうことなのか。 「書籍の発売後から、会社の評判を貶める行為と服務規程違反の疑いなどで内部調査が続いていました。その結果、もともと反ワクチン活動をしていた社員が1人特定され、著者だったことが判明したそうです」とMeiji Seikaファルマ関係者が明かす。 つまり、チームを騙った一個人が書いていたというのだ。 ■死亡した社員と接点なし さらに驚くべきことに、社内調査の結果では著者の社員とKさんとは面識がなかったという疑惑まで浮上している。 「社内に2人の関係性を知る者がおらず、そうした内容のヒアリングに対して当該社員は『完落ち』して全て自供したそうです。これを受けて、言われっぱなしに耐えていた会社側もいよいよ出版社に対して抗議などの行動を起こすと思います」(前出の関係者) Meiji Seikaファルマは10月、レプリコンワクチンについて「日本人はモルモット」などと公言する立憲民主党の原口一博衆院議員を名誉棄損で告訴する方針を発表。また、製品についての非科学的な主張やデマを拡散する団体などにも、法的措置を視野に警告文を送るなど毅然とした対応を見せている。 Meiji Seikaファルマに「私たちは売りたくない」をめぐる事実関係などの確認を求めたところ、社員の個人情報や処分内容などを明かさない条件で、今回の社内調査やヒアリングでの顛末について「否定する内容ではありません」と回答。調査で判明した事実については「近く社外にも公表いたします」と答えた。 実は「私たちは売りたくない」が売れるにつれ、ネット上では反ワクチン系の配信者らが「この社員を知っている」「確かに製薬会社の社員」などと“太鼓判”を押し、「チーム」を称しているのに「この社員は」と言われていた。出版前にもかかわらず、詳細な内容が表に漏れ出ていたことも確認されている。 当該社員がもともと反ワクチン活動をしていたとなれば、「製薬会社現役社員」として反ワクチン系の配信者らと近い匿名SNSアカウントは限られる。筆者はこの社員が運営していたとみられる動画チャンネルや、過去の出版物も掴んでいる。この界隈ではそれなりに名が通っていたが、現在は活動を停止しているようだ。 ■大宣伝の版元の反応は… こうなると「私たちは売りたくない」も、反ワクチンのエコーチェンバー現象の延長線上で画策され、世に出されたものとの疑念も沸いてくる。 版元はホームページで「医療業界内部の熱き良心が形となった1冊」などと宣伝。同僚の死を憂いて「編集チーム」が名付けられたエピソードなども詳しく説明している。新聞広告も次々に打たれ、この「告発」を肯定的に扱っていたメディアさえある。 ワクチン接種の後に亡くなった社員がいたことは事実でも、その死を憂いた製薬会社の社員たちが立ち上がったかのような悲壮なストーリーが完全に虚偽だったとなれば、共感して購入した人への裏切りではないか。ハナから捏造であれば、あまりにも衝撃的な展開だ。 版元の方丈社に取材を申し入れたところ、「電話での担当者への取り次ぎはしていない。返答するよう伝えるので質問をメールフォームで送ってほしい」とされた。すぐに「書籍タイトルや著者の成り立ちが事実ではなかったことになるが出版社としてどのような見解か」などの質問状を送ったが、自動の受信通知があったのみで、18日時点で返答は届いていない。 Meiji Seikaファルマが腰を上げることによって、何らかの動きはあるのだろうか。 (文=黒猫ドラネコ/ライター)