《認知症になった末の資産凍結を避けるために》「法定後見」「任意後見」「家族信託」認知症になる前に使える制度、なった後に使える制度の違いを徹底解説
認知症になったら財産が凍結され、不動産も売却できない。そうした事態に陥らないためにやっておくべきことがある。大切な家族のため、そして何より自分のために、9月に亡くなった大山のぶ代さん(享年90)と、ピーコさん(享年79)から学ぶ「本当の対策」とは──。 【一覧表】認知症になる前となった後で使える制度の違いとは
大山さんの自宅は、2017年に大山さんの夫・砂川啓介さん(享年80)が死去して以降、空き家状態が続いている。大山さんの認知症が進行したこともあり、自宅を売却することができなかったようだ。また、砂川さんと大山さんの間に子供はおらず、かねて大山さんには身寄りがないとされており、相続できない状態となっている可能性が高い。 一方、ピーコさんが、双子の弟であるおすぎさん(79才)と一緒に暮らしたマンションは、2012年から名義上はおすぎさんが所有していたが、認知症の症状が出たピーコさんが施設に入ってから5か月後の2023年8月、無人となっていたマンションは売却された。関係者が、おすぎさんに成年後見人をつけたことで、売却ができたという。 2人の事例から「認知症になる前にやっておくべきこと」を学ぶ。【前後編の後編。】
認知症で判断能力が低下すると資産凍結に
ともに認知症の症状があったにもかかわらず、大山さんとは異なる道を辿ったおすぎとピーコさんの自宅マンション。その違いは、「認知症になる前にやっておいたこと」があったのかもしれない。 高齢化が進む日本は本格的な「認知症大国」となりつつある。認知症の患者数は年々増加し、65才以上の認知症患者は2020年に約602万人だったのが、2030年には約744万人に増えると予想されている。これは高齢者の5人に1人が認知症になるという計算だ。 認知症発症で判断能力が著しく低下すると、どのような弊害が生まれるのか。 司法書士法人宮田総合法務事務所の代表司法書士・宮田浩志さんが解説する。 「金融機関が本人の判断能力は不充分だと認識したことにより、預金や証券口座などの金融資産は名義人本人であっても自由に使えなくなり、家族でも引き出すことができなくなる“資産凍結”のケースが増えています。資産があっても、認知症を患った本人の介護施設への入所費用の捻出にさえ、苦労することも少なくありません。本人名義の自宅不動産などの売却もできず、空き家になるかもしれません」 資産凍結は、銀行の口座名義人などが認知症になった場合、判断能力が低下した名義人本人の財産を守るために行われる。詐欺や横領などの犯罪に巻き込まれることを避ける防御策なのだが、財産が自由に処分できないと大山さんやピーコさんのように、さまざまな不都合も生じる。