モリゾウが「水素GRカローラ」で自らレース参戦する理由、トヨタ「MIRAI」を300km試乗して感じたFCEVの未来
水素を使うクルマはこれからどう進化していくのだろうか。トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」に乗って、スーパー耐久シリーズ最終戦が開催される静岡県富士スピードウェイに向かい、燃料電池車と水素を使うエンジン車の可能性について考えた。 【写真】トヨタの燃料電池車「MIRAI」の内部はこうなっている (桃田 健史:自動車ジャーナリスト) トヨタ「MIRAI」は日本車として初の量産型燃料電池車で、現行車は2020年に発売された2代目モデルだ。 ボディ寸法は、全長4975mm×全幅1885mm×全高1470mm、ホイールベースが2920mmで日本車のセダンとしてはかなり大きい。 駆動方式は、初代MIRAIが採用していた前輪駆動から後輪駆動に変更した。 ただし、エンジン車のFR(フロントエンジン・リアドライブ)のようなレイアウトではなく、発電するFC(燃料電池)スタックは車体前方に置き、モーターで後輪を駆動させるRWD(後輪駆動)である。 FCスタックの最高出力は128kWで、モーターは最高出力134kW・最大トルク300Nmだ。 そもそも燃料電池車は、水素を燃料としてFCスタックで発電し、駆動用バッテリーを使い車輪を駆動する仕組みの電気自動車(EV)だ。 トヨタは、以前にはFCV(フューエル・セル・ヴィークル)という商品表記をMIRAIに使っていたが、近年ではFCEV(フューエル・セル・エレクトリック・ヴィークル)と呼ぶようになった。 筆者はこれまで、2代目MIRAIを様々な走行シーンで試乗してきた。今回改めて乗ってみて、静粛性の高さ、取り回しやすさ、そしてゆったりと余裕のある走り味を実感した。
■ いい意味で水素を感じない「MIRAI」の乗り味 エンジン本体、トランスミッション、プロペラシャフト、デファレンシャルギアといった大きな機械がないので、振動や音が発生しにくいのは当然だ。 ようするに、燃料電池車とは「自車発電するEV」なのだから、乗り味としてはEVであり、ドライバーや乗員は燃料電池車であることを意識することはない。 その上で、走り味について「ゆったりと余裕のある」と評したのは、MIRAIと基本的に同じ車体構造を持つトヨタ「クラウン」のFCEVや、ホンダの最新FCEVである「CR-V e:FCEV」などと比較してのことだ。 MIRAは、商品コンセプトとしてソフトでマイルドな上級車という方向性があり、そのためのサスペンションとハンドリングのセッティングが施されていることが分かる。 東名高速道路や、富士スピードウェイ周辺のワインディング路では、上質な走りによってドライバーとして疲れを感じることは少なかった。 富士スピードウェイに到着すると、グランドスタンドに隣接するエリアでは水素社会におけるクルマのあり方について、様々な展示が行われていた。 その中には、MIRAIから外部に給電するシステムもあった。災害時やイベントなどでの定置型電源として実際に利用されている仕組みである。 レーシングコースに目を移すと、トヨタ本社直轄チームが手掛ける「水素GRカローラ」が順調に周回を重ねている。耐久レースなので数人のドライバーが交代するが、その内のひとりが「モリゾウ」というニックネームでドライバー登録しているトヨタの豊田章男会長だ。 こうした風景は、自動車業界関係者はもとより、モータースポーツファンの間ですっかり馴染になった印象がある。 そうとはいえ、創業者系の実質的な経営トップが自らモータースポーツに参加する事例は珍しい。特に、モリゾウほど精力的かつ持続的に参戦するケースは極めて稀だ。 トヨタとしては、水素社会の早期実現に向けて、モリゾウがスポークスマンとなり未来の技術に向けた公の場での研究開発を進めているということだろう。