モリゾウが「水素GRカローラ」で自らレース参戦する理由、トヨタ「MIRAI」を300km試乗して感じたFCEVの未来
■ 足りないインフラ、水素社会の到来に課題 水素GRカローラが搭載するパワーユニットは、ガソリンエンジンを改良した内燃機関に水素を直接噴射するもの。多様なパワーユニットを国や地域の社会環境に応じて使い分ける、トヨタでいうマルチパスウェイの一環である。 筆者は、こうしたトヨタの水素エンジンを実際に試乗したことがある。 昨年6月に静岡県の東富士研究所で報道陣向けに実施した「トヨタテクニカルワークショップ2023」での体験で、車両はレクサス「LX」をベースとしたものだった。トヨタが社外向けに水素エンジン車を試乗させるのは、この時が世界で初めてだった。 体感としては、エンジン回転数が3000rpmを超える中・高回転域では通常のガソリンエンジン並みの力強さを感じた反面、エンジン回転数が低い領域ではトルクが細い印象を持った。それから1年半近くが経過しており、水素GRカローラによる実戦で得た知見が先に乗ったLX実験車両を含めて活かされていることだろう。 時計の針をさらに戻せば、トヨタは燃料電池車について2000年代から量産化に向けた研究開発を進めていた。 筆者はそうした各種のトヨタ燃料電池プロトタイプを日米で試乗したが、操縦安定性や各種システムの作動音など、現行の2代目MIRAIと比べると大きな差があった。 また、国が進めるエネルギー基本計画における水素社会の実現に向けて、期待の星として量産が始まった初代MIRAIと比べても、2代目となったMIRAIは後輪駆動になっただけではなく、クルマとしてのクオリティが着実に上がっていると感じる。 ただし、燃料電池車についても水素エンジン車についても、普及するためには水素関連のインフラのさらなる整備が不可欠だ。 今回は、首都圏周辺、および都内から富士スピードウェイの往復で、走行距離は約300kmで水素残量は半分を少し切った程度だったため、「給水素」は行わなかった。 それでも、やはり長距離移動になると、水素ステーションの場所を事前に把握し、さらにステーションが利用する予定の日時に営業しているかどうかをダブルチェックするなど、事前の準備が必要なのが実情だ。 水素社会の実現に向けて、トヨタMIRAIは良きベンチマークになることは間違いない。過去の各種燃料電池車の試乗体験を振り返りながら、富士スピードウェイからの帰路でそう感じた。 桃田 健史(ももた・けんじ) 日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材するジャーナリスト。インディ500、NASCARなどのレースにレーサーとしても参戦。ビジネス誌や自動車雑誌での執筆のほか、テレビでレース中継番組の解説なども務める。著書に『エコカー世界大戦争の勝者は誰だ?』『グーグル、アップルが自動車産業を乗っとる日』など。 ◎Wikipedia
桃田 健史