「ボケ防止グッズ」は本当に認知症に効果ある?テレビゲームやおもちゃは?親の自尊心を傷つけるプレゼントになることも【医師・山田悠史】
世界最高峰の老年医学科で働く山田悠史医師が、脳の老化と認知症の進行を遅らせるために「本当に必要なこと」「まったく必要でないこと」を伝えます。 【グラフ】認知機能を改善する可能性あり!地中海式の食事のすごい効果
山田 悠史 米国内科・老年医学専門医。慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。新型コロナ専門病棟等を経て、現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ「ライブニュースα」レギュラーコメンテーター、「NewsPicks」公式コメンテーター(プロピッカー)。カンボジアではNPO法人APSARA総合診療医学会の常務理事として活動。著書に、『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』、『健康の大疑問』(マガジンハウス)など。 X:@YujiY0402 Podcast:山田悠史「医者のいらないラジオ」 Spotify Apple Podcasts Anchor Voicy
ボケ防止グッズのエビデンス
脳の老化防止といえば、「ボケ防止グッズ」もその代表例でしょう。インターネットで検索してみると、あんなものからこんなものまでボケ防止グッズとして紹介されています。テレビゲーム、パズル、子供用のおもちゃ、ぬいぐるみ。本当にそれが「ボケ防止」になるのでしょうか。 認知症予防目的と称してつくられたパズルならまだしも、子供用に作られたぬいぐるみが本当に認知機能を良くするのかと言われれば、さすがに私の屁理屈のような論文紹介がなくても疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。 実際問題、個々のグッズにきちんとしたエビデンスが作られているわけではありません。このためほとんどのケースでは「分からない」という答えになってしまいます。しかし、調べていくと限られたグッズには研究が行われているので、参考までにいくつかご紹介しましょう。
テレビゲーム
テレビゲームが高齢者の認知機能に与える影響については、すでにいくつかの研究が行われています。たしかにテレビゲームは頭を使いそうですし、リモコン操作では高度な手の動きも求められそうです。「認知症予防に良さそう!」と直感的には思えます。本当のところはどうなのでしょうか。 テレビゲームやコンピューターを使った認知トレーニングは、参加者の限られた小さな研究で認知機能の中でも注意力やアルツハイマー病で問題になりやすいエピソード記憶といった認知領域でわずかに改善が示されているようです(参考文献1)。 さらに、テレビゲームを使うことで認知症一歩手前の患者さんの全般的な認知機能検査のスコアがわずかに向上したという結果を報告するものもあります(参考文献2)。これらの結果からは、ゲームが認知機能の一部をサポートする可能性があると言えそうです。 また、テレビゲームが気分の改善にも効果があるとする結果も報告されています(参考文献1)。ゲームを通じて楽しみながら認知機能を刺激することで、心の健康にも良い影響を与えるのかもしれません。 しかし、そうすんなりと結果を受けいれられない事情があります。これらの研究の多くは、参加者の数が少なかったり、長期的な観察が欠けていたりと、方法論的な課題を抱えているのです(参考文献2)。そのため、結果の信頼性に大きな問題があります。 結論として、テレビゲームが高齢者の認知機能や気分を改善する可能性がないわけではないですが、少なくとも認知症を予防できるという十分な証拠はまだないと言って良さそうです。「認知症予防に有効」「脳の老化を防ぐ」などという宣伝には注意する必要があります。 興味深いことに、ビデオゲームは認知機能の低下を早期に検出するツールとしても期待されています。特定のゲームでのパフォーマンスの傾向が、認知症の早期発見に役立つかもしれないというのです(参考文献3)。ビデオゲームには、そのような活用法もあるのかもしれません。