何が本当で何が嘘? フェイクカルチャーが横行するSNSの現状とは。
映画化
実話に基づくNetflixドラマ「令嬢アンナの真実」は、貧しいロシア女性のアンナ・ソロキンが裕福なドイツ人令嬢になりすまし、ニューヨークの上流社会の芸術愛好家たちからお金を巻きあげるという、これまた詐欺の話だ。壮大な詐欺を働いた女性なら、2010年代に事件になったイギリス人女性のジーンとメーガン・バリの母娘もいる。母は娘が脳腫瘍を患っていると言い、ふたりで小児ガンの子どもたちを支援するチャリティ団体を立ちあげた。イギリス王室や当時のキャメロン英首相、ボーイズバンド「ワン・ダイレクション」まで巻き込んで、天文学的な額をSNS経由で集めることに成功、ところがふたりは5つ星ホテルやプライベートジェットですべてを浪費した。2018年にメーガンが23歳で亡くなったとき、母親の言いなりだった娘は脂肪肝とオピオイド中毒のせいで亡くなったのであって、ガンではなかったことが判明した。 『Imposteurs. Tromper son monde, se tromper soi-même(原題訳:詐欺師たち、世界と自分をだます)』(Seuil刊)の著作がある精神分析学者のパトリック・アヴランは、リベラシオン紙の取材に対し、「禁止領域に足を踏み入れ、境界を壊していく詐欺師たちはすごい」と素直な感想を述べている。それにしても詐欺師とは何者なのだろうか? 精神分析学者のローラン・ゴリに言わせれば、彼らは「カメレオンかスポンジのような存在」なのだそうだ。「順応主義者、普通の人間のシャムの兄弟的な存在でもある。環境に適応しようとし、特定の時代、特定の社会の価値観に順応する存在だ。詐欺師の場合、ふりをするのがうまい。順応しているふりをするのだ」とローラン・ゴリは言う。どの時代にも詐欺師はいた。17世紀のフランスの劇作家、モリエールは、宗教を利用して人々を欺こうとする詐欺師「タルチュフ」を描いた。デジタルの時代となった今日、詐欺師が増加したように思える。「人々のタガが外れたのかもしれない。パソコンの中に隠れて、いわゆる"デジタルの亡霊"が作り出せるようになった。それは偽りの人格であり、人工的な自我のようなものだ」と精神分析学者のローラン・ゴリは指摘する。インスタグラムでフォロワーをあっと言わせるような投稿をしようと張り切っている我々は、すでに周囲を操ろうとするミニ詐欺師の領域に足を踏み入んでいるのではないだろうか。 アメリカのミレニアル世代の間で、「fake rich(エセ金持ち)」という新しいトレンドが生まれつつある。身の丈をはるかに超えた生活を送り、高価な車や夢のような旅の写真をインスタグラムやTikTokに投稿することで、いかにも金持ちであるかのような印象を与える若者たちだ。SNS上で自分には手の届かない贅沢をひけらかす動画に常にさらされ、仕事や社会でプレッシャーを受け続けている20歳から35歳の世代。そんな彼らの非現実的な憧れを密かに物語るようなトレンドだ。30歳までにロレックスを持っていなければ、人生の失敗者だと短絡的に彼らは考える。だからそうじゃないことを証明するために買わなくてはと思う。たとえその後、10年間の借金を背負っても。精神分析学者のローラン・ゴリの説明を聞こう。「パフォーマンス社会に生きる我々は、素早く強烈で有効な一撃を与える必要に迫られている。真実の探求にはたくさんの時間、検証、実験が必要だ。一方、不正行為やごまかしは、即席の数字や結果に重点を置く態度だ」 時には競争率の高い職業に就きたいがためにごまかすこともある。将来の雇い主を納得させるために自信たっぷりに盛った履歴書がその証拠。人によっては大学入学するときから自分をよく見せようとする者もいる。あるいは科学ジャーナル風の刊行物に研究発表する科学者たち。精神分析学者のローラン・ゴリ曰く、「2018年の「ル・モンド」紙の記事ではすでに、こうしたエセ科学ジャーナルに虚偽の研究結果が掲載されていることを警告している。こうした欺瞞が研究界の慣習に由来することをこの記事は示していた。すなわち、発表しなければ朽ちるしかない」