何が本当で何が嘘? フェイクカルチャーが横行するSNSの現状とは。
フェイクカルチャー
今やフェイクニュースは言うに及ばず、AIがどんなフェイク画像も作りだす。ダウン姿のローマ法王や清掃業に従事するマクロン仏大統領、はたまたバラク・オバマ元米大統領とアンゲラ・メルケル元独首相が砂の城を作っている場面など、どんな画像でもAIならでっちあげられる。AI生成によるコラボ曲(Heart on My Sleeve、ドレイクとザ・ウィークエンドの声を使ったAI生成ラップ)がヒットする時代、詐欺師や詐欺を題材にしたストーリーも人気だ。たとえばNetflixの「TINDER詐欺師」は、女性を次々とたぶらかした詐欺師サイモンを追ったドキュメンタリーだ。同様にネットで配信されている「ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女」は、ユニコーン企業のセラノスを率いたエリザベス・ホームズの事件をドラマ化したもの。エリザベス・ホームズは簡単な血液検査によって迅速かつ安価に病気を発見できると喧伝し、詐欺罪に問われた。彼女の話は嘘っぱちばかりだった。あるいはイギリスのテレビ局ITVXの「Deep Fake Neighbour Wars」という、お世辞にも上品とは言い難い番組では、リアーナやビリー・アイリッシュ、イドリス・エルバといったセレブの「ディープ・フェイク」すなわちAI生成によるそっくりさんが同居して、隣人問題やゴミ問題でいがみあう。 こうしたフェイクカルチャーは子どもたちの間にも広がっているようにみえる。「中学に通う娘のクラスでは、誰かとつきあっているとか、性的暴行やガンの話とか、嘘をつく生徒が何人もいる」とマリアンヌという母親は語った。しかしながら児童青年精神医のマリー・ローズ・モロー教授によれば、これは昔から子どもに見られる現象で、発達に伴うものだそうだ。同教授はパリにある青少年専門の精神科センターの所長でもある。「これは子どもの自立過程でよく見られる行動です。子どもは自分の物語を作りあげたいという欲求から、友達の気を引くために泣いたり、被害者を装ったりすることがあります」とモロー教授は説明する。このような態度は、とりわけ満たされない気持ちを抱えていたり、困難な状況にあったりする子ども、必要なものが与えられてこなかったために語るべき物語を持たない子どもに見られる態度だそうだ。 養子は、何も知らない実の両親についての作り話をするかもしれない。休みにどこにも連れていってもらえない子どもは、語ることがないために同様に振る舞うかもしれない。あるいは第3のケースとして、罰や拘束から逃れるために周囲を操ろうとする子どももいる。たとえばその場を誤魔化すために祖母が亡くなったと嘘をつき、同じ嘘を繰り返すためにバレるというような行動もその一種だ。モロー教授にいわせると、第3のケースは「かなり神経症的な行動」だそうだ。事件を起こす詐欺師同様、自分のストーリーを求める若者たちが求めているものはみな同じなのかもしれない。つまり、自分の葬儀をでっちあげたラグナール・ル・フーのように「大きなスリル」、他人の注目を集めることで得られる快感だ。 「子どもや青少年があからさまな嘘をつくからといって、それは彼らだけの問題なのだろうか」と疑問を呈するのは精神分析学者のローラン・ゴリだ。『La Fabrique des imposteurs(原題訳:詐欺師の作り方)』や『La Fabrique de nos servitudes(原題訳:隷属状態の作り方)』(いずれもLes Liens qui libèrent刊)等の著者でもあるローラン・ゴリは、詐欺師(=インポスター(imposteur)=ラテン語のimponere「押しつける」に由来する言葉)が小説や映画、テレビドラマで人気なのは、今の世の中や人々の価値観がそこに反映されているからではないかと言う。「(フランスの思想家の)ギー・ドゥボールならば『消費とスペクタクルの社会』とでも言っただろうか。それは真実よりも見せかけや声の大きさ、話題性、派手な立ち振る舞いが重要視される社会だ。現代社会では詐欺や欺瞞、嘘が蔓延しているというのは言い過ぎだが、見せかけの正直さだけで十分うまく立ち回れる場合がある。しかも今日、権力者であるかどうかは所有する財産よりも、銀行や団体、一般大衆から信用されるかどうかによって測られる」