<調査報道の可能性と限界>第6回 調査報道の難しさ「情報源秘匿」と「1人旅」
政治や行政の不正・腐敗などを明るみに出す調査報道には、困難や限界、失敗もつきものです。長い時間と人員を投入しながら、日の目を見なかった取材も、過去にはたくさんあったと言われています。実際に、どんな困難が横たわっているのでしょうか。 【図表】第5回 「内部書類を手に入れろ」調査報道のプロセスは?
■文書の欠落部分からネタ元特定の恐れ
10年前の2004年1月のことです。沖縄県の地方紙「琉球新報」は、外務省が長い間秘匿していた「日米地位協定の考え方」という内部文書を入手し、紙面で大きく報道しました。内部文書そのものを別刷り特集に掲載し、秘密だったものが約20万部も配布したのです。 調査報道のノウハウを集大成した「権力vs調査報道」(旬報社刊、高田昌幸・小黒純両氏の編著)の中で、琉球新報の記者がおおむねこんなことを明かしてします。 「入手から報道までに実は7、8年かかっている。カムフラージュに7、8年かかった。実は、最初に入手した文書には欠落があり、入手時点ですぐ報道すれば、欠落部分からネタ元が特定される可能性があった」 「取材源を守れなかったら、その瞬間、この職業は終わり。防衛省や外務省は、職員と記者の交友関係などを徹底的に調べる。記者と情報の漏れそうな職員との交友関係などを徹底的に調べる。『この中に(漏洩の)犯人がいることはわかっている』と役所側に言われ、肝を冷やしたことが何度もある」 内部書類を入手できたのは、省庁内部に築き上げた「人脈」。それを守るための苦労をうかがい知ることができます。 当局者が自らに都合の良い情報を流す「リーク」と違い、調査報道における情報源はたいていの場合、その所属組織と利害が対立しています。組織にとって都合の悪い情報を記者に流すわけですから、組織防衛のみに目を奪われた幹部にすれば、情報源は「悪」。従って情報源が特定されてしまえば、彼・彼女らは大きな不利益を被ることは間違いありません。 前掲書を執筆した高田昌幸氏は、自著「真実 新聞が警察に跪いた日」(角川文庫)の中で、北海道警察による組織的な裏金づくりを報道した後、警察側はその後もずっと、「報道に協力した警察官」を探し続けていた、と記しています。当の記者たちは、やがて裏金発覚当時の幹部だった元警察官に民事訴訟で訴えられ、さらに検察にも刑事告発されます。組織防衛や情報源特定のために、ここまでするのか、と思わされます。