<調査報道の可能性と限界>第6回 調査報道の難しさ「情報源秘匿」と「1人旅」
■「報道は事実だったのか」確定的事実は残らず
報道界では「1人旅」という語句が時々使われます。調査報道によって埋もれていた事実を掘り起こしても、他の新聞やテレビがなかなか追随してこない状況を指します。 調査報道が1人旅になると、どんな事態が起きるでしょうか。 2013年11月、共同通信が「陸上自衛隊 独断で海外情報活動」という調査報道記事を掲載しました。それによると、陸上自衛隊は冷戦時代から組織内部に首相や防衛大臣にも秘匿したまま、海外での情報収集活動を行っていたとされています。防衛大臣すら預かり知らぬ活動だったことから、記事は「文民統制を逸脱」とも記しました。 報道後、防衛省などは会見で「そんな事実はない」と否定しました。他社も追随していません。その一方では、共同通信に対する訂正・取り消し要求や、激しい抗議もなかったようです。 そうしたことから、報道界では「共同配信は事実」と受け止められていますが、読者には「陸自の情報活動は事実だったのかどうか」という疑問が残ったことでしょう。 こうした場合、当局が「報道の通りです」と認たり、捜査当局などによって事実関係が明らかにされたりしない限り、その調査報道は「確定的事実」としてなかなか歴史に残りません。残るのは「~という報道があった」という部分のみです。不正や不作為をいったん認めてしまうと、政治や行政には当然、責任問題が発生します。その結果、政界や社会が混乱することも珍しくないでしょう。 調査報道はあくまで取材であり、捜査当局のように家宅捜索などの強制力はありません。100パーセントの裏付けを取ることは至難でしょう。報道された側がその内容を簡単に認めないという意味での「1人旅」も、調査報道の難しさを示しています。
■秘密保護法で調査報道はさらに困難に?
2013年に成立した特定秘密保護法は、間もなく施行されます。この法律が施行されると、調査報道はさらに難しくなると研究者らは発言しています。「特定秘密」の指定や運用については日本弁護士連合会などが強い懸念を示していますが、調査報道の観点からすれば、一番問題になりそうなのは「内部告発の萎縮」かもしれません。 国家公務員法や地方公務員法による「秘密漏洩」は、最高で懲役1年です。特定秘密を漏らした場合のそれは10年です。「国家には守るべき秘密がある」のは当然としても、仮に特定秘密の指定や運用に関連して何らかの不正や不作為があった場合、調査報道はそこに切り込むことができるでしょうか。