五郎丸が引退…W杯8強「ONE TEAM」誕生につなげた「ラグビーにヒーローは存在しない」の理念
印象的だったのは、2014年11月8日のワンプレーだ。 五郎丸は、日本代表に相当するJAPAN XVの一員として東京・秩父宮ラグビー場でマオリ・オールブラックスと戦った。 0-15とリードされて迎えた前半38分、敵陣中盤左で左側へ小さな弧を描くように駆ける。センターのマレ・サウにひきつけられたタックラーの背後へ回りながら、右にいたスタンドオフの小野晃征のパスをもらう。 その流れで左斜め前方の防御に仕掛け、タッチライン際でノーマークとなったウイングの山田章仁へピンポイントでつなぐ。トライ! 力に頼らない繊細な動きでスペースを作り、スコアを生んだのである。1週間前に21―61で敗れた相手に18-20と肉薄したことで一連のプレーの価値はより高まった。 守っては最後の砦として要所でビッグタックルを放った。 イングランド大会で唯一土をつけられた9月23日のスコットランド代表戦(グロスター・キングスホルムスタジアム)では、7―12と競っていたハーフタイム直前に自陣ゴール前左で相手をタッチラインの外へ押し出した。 本人が「ここで得点されるわけにはいかなかった。リーダーとして身体を張れたことは誇りに思います」と振り返るこの一撃もまた、前出の得点時に似た曲線のコース取りで生まれたものだった。タックルをするまでの五郎丸は、グラウンドの中央から外側前方へカーブを描いていた。相手の攻めるスペースを限定させた。 五郎丸がアーチを描く先には、歓喜があった。かたやゴールキッカーとしては、まっすぐな弾道により日本代表歴代最多の通算711得点(トライによる得点も含む)をたたき出した。 蹴るまでの動作は、ジョーンズ体制の日本代表で荒木香織メンタルコーチとともに詳細に設計。やがて「ルーティーン」と呼ばれ、流行した。もっとも2017年以降は、その「ルーティーン」を解消して新しいフォームで蹴った。誰かの思いを背負いながら、自分で決めた道を信じて突き進むのも五郎丸らしさだった。