五郎丸が引退…W杯8強「ONE TEAM」誕生につなげた「ラグビーにヒーローは存在しない」の理念
日本で21世紀初のラグビーブームを巻き起こしたヤマハ発動機の五郎丸歩(34)が12月9日、今季限りでの現役引退を表明した。2021年1月16日から始まるトップリーグの今シーズンを最後のステージとする。 2015年までに日本代表57キャップ(代表戦出場数)を獲得し、2016年からはオーストラリア、フランスでプレー。2005年から約10年在籍のヤマハ発動機へ2017年に再加入してからも、レギュラーとして活躍した。 現在34歳とベテランの域に入っていた五郎丸が自らの進退をこのタイミングで明らかにした本当の理由は、16日の会見で語られることになりそうだ。 ただ現時点で確かなのは、来月開幕のトップリーグに関して新たな話題が生まれたことである。 ラグビー界で日本代表経験者がシーズンの開幕前に引退を発表する例は、2010年度の大畑大介さん以来と言ってよい。五郎丸の開幕前の発表はコロナ禍で世間との接点が減ったラグビー界の潜在的な期待に応えたと言える。 振り返れば五郎丸は、ずっと周りからの期待を背負ってきた。特にその傾向が強かったのは、日本代表の副将だった2012年春からの4年間だろう。 現イングランド代表指揮官のエディー・ジョーンズのもと、副将兼正フルバックの立場を全う。海外での試合に出るのを優先して子どもの誕生に立ち会えないこともあったと、自身の日記やインタビューをまとめた書籍で明かしている。 「歴史を変える」と臨んだ2015年のワールドカップ(W杯)イングランド大会では、当時通算優勝2回の南アフリカ代表などから歴史的3勝をマーク。それでも決勝トーナメントに進めなかったことに「何とも言えない。曇り空のようでした」と失意の涙を流すが、帰国後に待っていたのは、開幕前と比較にならぬ注目度だった。
日本代表が結果を出す過程で、列島のラグビー人気は跳ね上がっていた。両手を胸の前で合わせてゴールキックを決める五郎丸は、観戦初心者にとってのアイコンだった。帰国から約1月後に国内トップリーグの開幕を迎えてからも、練習、公式戦の合間に各種イベントに引っ張りだことなった。 「せっかくゴローさんがああしてイベントに出ているのだから…」 他のイングランド大会組の1人は当時、こう証言した。極端に目立つのが好きではなさそうな五郎丸が自分の立場を理解して周知活動をしているのだから、自分を含めた周囲の人間は競技人気継続のために各自の仕事を全うしなくてはならない、という意味合いだった。 繰り返せば、引退の理由も、開幕前に発表を行った理由もまだ語られていない。 それでも往時のムーブメントを振り返れば、他者の期待を認識し、可能な範囲で応えようとする五郎丸の肖像が浮かび上がる。 当時、取材機会のたびに、「私をきっかけにラグビーが注目されれば」と発言。そしてこうも語っていた。 「僕のなかでは2015年のワールドカップに集中して、帰国後は国内のラグビーに集中しようと思っていた。ところが、実際はその2倍、3倍近く、きつくなって。ただ、そんなタフななかでもラグビーができたことはいい経験です。練習量は皆と同じ。そうなると…家族との時間を犠牲にするしかないですね」 身長185センチ、体重100キロ。日本で最後尾のフルバックを務める選手にあっては、大柄な部類だ。キックの飛距離も魅力的である。何より、かようなスケールの大きさを粗雑さに結ばなかった。