エヌビディア祭りが終焉し、日本の半導体株も暴落。成長鈍化に加え、AIサービス実需不足の懸念も台頭。利益成長に疑問符がついた高PER銘柄は手出し無用
●米エヌビディアの株価が暴落。トヨタ自動車1社分の時価総額が一晩で消失 米エヌビディアの時価総額が1日で41兆円の消失―。 9月3日の米国市場でエヌビディアの株価が9.5%安となり、わずか1日で時価総額は2830億ドル(41兆1000億円)減少した。この減少額は個別銘柄において過去最大であり、およそ日本のトヨタ自動車まるごと1社分の時価総額が消えてしまうのに匹敵する額である。 エヌビディアは8月28日に2024年5~7月期決算を発表。売上高は前年同期比2.2倍の4兆3500億円、純利益は2.7倍の2兆4000億円となった。わずか3カ月間での数字だ。物凄い決算であるが、売上高、純利益のいずれも市場予想を上回った。ところが、決算発表直後の時間外取引で株価は8%安。「えっ、何で? 好決算で予想を上回っているのに理解できない」なんて言っているそこのあなた。株式投資を分かってないね。好決算でも株価が上がるとは限らないのが株式市場である。 ●エヌビディアの5~7月決算は好調も今後の成長性鈍化の懸念から失望売り エヌビディアは今年の米国市場の牽引役であり、世界の株式市場の牽引役である。決算発表前から世界中の投資家が固唾を飲んで見守っていた。「好決算で当たり前」「市場の期待に応えられないと売られやすい」状況にあった。「でも太田先生、結局は市場の期待以上の好決算だったではないですか? 」と聞かれそうだ。確かに5~7月期の実績はその通りだ。でも、それはあくまで過去の話であり、重要なのは今後の見通しである。8~10月期の会社の売上高見通しを見ると、四半期比較で8%の伸びである。要するに4~7月期に比べて一桁の伸びに留まるという予想だ。「これって、もう成長株ではないよね? 」「アカンのとちゃいまっか? 」 という成長性鈍化の懸念から失望売りをもたらした。 この状況に輪をかけて急落した9月3日に新たな懸念材料が2つ出た。ひとつがAI市場の成長性に関する懐疑論、もうひとつが米司法省から反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで情報提供を命じられたとの報道である。中でも懐疑論はAI産業への楽観的な見方を木端微塵にするほどの破壊力を持っていると私は思う。 ●エヌビディアのGPU供給規模に対してAIサービス実需の大幅不足を懸念 米VC(ベンチャーキャピタル)大手のセコイア・キャピタルが試算したところによると、現在のエヌビディアが供給している画像処理半導体(GPU)の購入規模に見合ったAIサービスの需要は6000億ドル(約87兆円)必要なのに対して、現状は1000億ドル程度にとどまると分析。消費者や企業が利用するAIサービスの実需が5000億ドル(約72兆円)も不足していることになる。巨大な需給バランスの不均衡である。実際、エヌビディアのGPUを購入するIT大手ではAI事業の収益化が見られないと言われている。収益に貢献しなければ各社とも購入を控え、AI投資が一巡する可能性があり、市場では「2025年以降の需要の伸びに懐疑的」との声も出ているようだ。とにかく、今は黎明期だからIT大手各社は一斉にエヌビディアの製品購入に走ったが、肝心のビジネスに育たないのならばエヌビディアの将来性は明るくない。そういう疑念が持たれ始めているのだ。 折しも、世界の半導体売上高は7月に前月比で11%減となった。中国を中心としたパソコンやスマホメーカーが、手元の在庫状況を見てDRAMなどの調達量を減らす動きが出てきており、出荷の伸びは減速し在庫は増加に転じつつある。 ●エヌビディア祭りに担ぎ上げられていた日本の半導体株も悲惨な状況 ところで、今回のテーマは「エヌビディア祭りの終焉、半導体株が暴落」である。エヌビディアと一緒になって「わっしょい、わっしょい」と担ぎ上げられていた日本の半導体株は暴落して悲惨なことになっている。今年の高値と9月6日の終値を比較した株価パフォーマンスを見ると、東京エレクトロンは46.2%安、レーザーテックは48.7%安、ディスコは49.7%安と値がさ銘柄はほぼ半値になってしまった。 私がダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチとのコラボレーションで投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」の会員には年初頃から「半導体関連に手を出すな」と言ってきた。その理由は以下の通りである。 ① 投機的・短期トレードが多い(値動きに投資) ② 値動きが激しい(ボラティリティ大) ③ 米国発のバブル的な株価形成(エヌビディア) ④ 株価がすでにかなり割高 ⑤ 好決算が出始めたら、株価下落の可能性 日本の半導体関連はそもそもバリュエーションがアホみたいに高く、しかも中国比率が3~4割もある。米国が半導体という稼ぎ頭の領域において中国牽制の意味合いで規制強化する流れも出ている。バリュエーションとは株価が予想利益に対して何倍まで買われているかを示す株価収益率(PER)のことを指す。 PERが高ければ割高、低ければ割安だ。大事な点は過大なPERは長期に渡って維持されることはない。 ●利益成長力に疑問符がついたグロース株はバリエーション剝落が続く傾向 ちなみにエヌビディアの現在のPERは40倍。これに対して、レーザーテックは高値で80倍まで買われていたが、今や半分の水準となりエヌビディアと同レベルだ。「PER40倍なら安いのでは」と聞かれると、私はこう答える。「利益成長力に疑問符が付いたグロース株はどんどんバリュエーションが剥げ落ちるリスクがあり、PER40倍は過大なPERである」と。 先週の日本市場は急落したが、要因はシステマティックリスク(市場全体のリスク)である。半導体関連銘柄を保有しない投資家にとってはシステマティックリスクだが、保有投資家にとってはアンシステマティックリスク(個別銘柄リスク)そのものである。彼らに相当ヤバい状況が起こっていると思われる。 ●金融相場に向けた投資戦略を知りたい方はセミナーの録画動画をチェック さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言を行っている「勝者のポートフォリオ」。2大特典として毎月のWebセミナー開催とスペシャル講義を提供している。9月5日(木)20時よりWebセミナーを開催。テーマは『ついにFRBは利下げへ、金融相場の到来に注目』。今回やって来る金融相場は従来の金融相場と比較して、いろいろと特徴的な点がある。そうしたポイントを点検しながら、金融相場でどう闘っていくべきかについて考察。また、先週の株式市場の急落についても解説した。305名の参加者があり22時半に閉会。セミナー動画はすでに会員ページで公開済みだ。次回のWebセミナーは10月3日(木)20時より開催予定である。10日間の無料お試し期間を使えば誰でも参加が可能だ。 そして、スペシャル講義では『ポートフォリオ理論』に続き、太田流『ポートフォリオ実践』がスタートした。資産運用においてポートフォリオ運用のノウハウを知っておくことは必須であり、個人投資家にそれを身に付けてもらうことを目的としている。また、太田流『新NISA活用法』もすでに完結した。700名の会員たちはすでにバッチリ新NISAに取り組んでおり大きな成果を出している。資産運用を真剣にお考えの皆さま、「勝者のポートフォリオ」で一緒に大きく飛躍しましょう。ぜひ、ご参加をお待ちしております。 ●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
太田 忠
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