存在感増す「インターンシップ」 売り手市場の就活、採用側の思惑は
労働現場の人手不足や少子化の影響で新卒者の採用はここ数年、学生優位の「売り手市場」が続く。採用側は初任給の増額や福利厚生の充実をアピールするなど、人材の獲得競争は激しい。その中で存在感を増しているのが「インターンシップ(就業体験)」だ。学生が「職場を知りたい」と参加する一方、適材確保を目指す採用側の思惑も見え隠れする。 12月27日午後。松山市の伊予銀行本店で、大学3年生9人が二つの班に分かれ、考案した新たなデジタルサービスを同行員に発表した。5日連続で開かれたインターンの最終日。学生の起業支援と、各種チケットの一括管理ができる二つのアプリ案に「学生らしい柔軟な発想」などと評価する声が上がった。 業務のデジタル化を積極的に進める伊予銀は、スマートフォンアプリの開発や行内のシステム管理に携わる人材確保にも力を入れている。2019年から「デジタルインターンシップ」を開始。23年に参加した17人のうち、9人が実際に採用された。同行人事部の松浦武司課長補佐は「昔は企業説明会がメインだったが、近年はインターンシップの参加者が増えている。学生側が企業を選ぶ場になっている」とみる。企業にとっても入社後のミスマッチをなくして離職を防ぐ狙いもある。 岡山市から参加したノートルダム清心女子大の入江真央さん(21)は「初対面の人ばかりで関係を構築しながらの企画の立案・発表は難しかったが、達成感があった」と振り返った。「インターンを実施している地銀は少なく、人材の確保・育成に力を入れている。入行してからも成長できる銀行だと実感した」と志望度が高まった様子だ。 総合企画部で業務効率化に携わる猪口未有(みゆう)さん(24)は同インターンに参加後、23年に入行した。「さまざま挑戦ができることにインターンで気付けた。銀行の仕事や雰囲気を知ることができるので、ぜひ参加してみてほしい」 ◇自治体も積極活用 人材確保にインターンを積極活用するのは民間だけではない。愛媛県庁は02年度から5日間の夏季インターンを導入。当初は県内大学からキャリア教育充実の一環として依頼され、学生の受け入れが始まった。しかし、徐々に志望者確保の目的が大きくなっている。大卒程度が対象の上級試験の最終倍率は04年度が27・3倍と過去25年で最高だったが、23年度は3・1倍となり、志望者の減少傾向が続いているからだ。 初年度のインターン受け入れは27人だったが、23年度は116人、24年度は358人と大幅に増加した。23年度に人事委員会事務局採用給与課内に人材確保グループを新設。より積極的な採用活動を進め、インターン希望者すべてを受け入れる体制を整えたことも増加につながった。1日や3日など短期の就業体験会も実施。同課の松浦真幸課長は「早い段階で県庁の認知度や理解度を高め、就職先の選択肢に入れてもらえる。職員と接することで就職への不安も取り除ける」と利点を語る。 県庁では12月下旬にも3日間の就業体験が行われ、30人が参加した。最終日の体験内容の発表では、「デスクワークが多い」「雰囲気が固い」という当初のイメージから「企業や外部の専門家との連携もあった」「コミュニケーションが活発で若手の意見も重視している」など好意的な印象に変わっていた。県庁志望という松山大学3年の古川そらさん(21)はデジタルシフト推進課に配属された。「知識のない課に配属されても、先輩の助けや前任者の引き継ぎがあるので不安がなくなった」と話した。 一方で、松浦課長は「受け入れを増やす中で満足な体験を提供できない場合があった」と分析。「インターン先の課で差が生じないよう、全庁で意識の統一を図り、体験内容などの質を高めることで志望者増につなげていきたい」と意気込む。【山中宏之】 ◇重視するのは「職場の雰囲気」 いよぎんホールディングス(松山市)傘下のシンクタンク「いよぎん地域経済研究センター(IRC)」は2024年5~6月、愛媛県内の大学1~4年生を対象に就職に対する考え方を調査し、374人から回答を得た。 「就職で重視すること(企業満足度、複数回答可)」では「職場の雰囲気が良い」が「重視する」または「やや重視する」を合わせて98・4%で、「安定している」(同95・2%)「将来性がある」(同94・1%)などを抑えてトップだった。 また、インターンシップへの参加について、3年生(197人回答)で「参加済み」または「参加予定」と回答したのは84・7%を占めた。 IRCの冨永祐生(ゆう)・主任研究員は「インターンシップへの参加が一般化している。採用側は学生のニーズに応えられるよう、実施の検討や内容の充実が望まれる」と話している。