ベトナムで自律的な町並み保存を引き出した日本の協力とは:世界遺産の街・ホイアンからの報告
支援機に多様な交流へ
ホイアンと日本の自治体の間では、互いに学び協力し合う持続的な連携が始まっている。17世紀中ごろの日本では、ホイアンの日本人町の惣代を務めた角屋七郎兵衛が三重県・松阪に送った柳状布をもとにした縦じまの松阪木綿が流行した。松阪木綿で財をなした三井・小津・国分・長谷川などの松坂商人たちは日本橋大伝馬町に店を構え、三井家は三井財閥を築いた。こうしたつながりもあり、松阪市・東京日本橋地区とホイアン市の交流が実現している。 鎖国に伴い長崎に帰国し生活した貿易商・荒木宗太郎と妻アニオーを懐かしむ「長崎くんち」の祭りを縁に、長崎県も交流を開始。ほかにもホイアンを中継地として銀を欧州まで運んでいた世界遺産の島根県・石見銀山、朱印船交易でホイアンとつながった大阪・堺、シルク産業の復興に向けて協力する京都・西陣など、多様な交流が行われている。 2023年、日越国交関係樹立50周年を記念して、ホイアンと長崎を舞台にしたオペラ「アニオー姫」の日本公演を昭和女子大、東京、神奈川で実施。オペラの音楽朗読劇や映像試写会は各地で開かれるようになった。昭和女子大学では「世界遺産ホイアン日本橋展」も開き、町並みのデジタル化も実現した。デジタル化は、VR Chatというネット仮想空間で実現したもので、現地に行かなくてもVRゴーグルやスマホなどで美しい町並みを楽しめるようにしたものだ。
要人も次々訪問
ホイアンを窓口にした日越交流は、要人も含め多様性に富むようになった。 2007年、当時の天皇陛下(現上皇陛下)はベトナム国主席を招いた場で「ホイアンの町並み保存や伝統的な木造建築の修復にはわが国の専門家も協力したと聞いておりますが、このような形で貴国とわが国の交流が現在にまで引き継がれていることを、うれしく思います」と述べられた。ホイアンに09年に皇太子さま(現天皇陛下)、23年には秋篠宮さまが訪問。17年に当時の首相である故安倍晋三氏が訪れた。 経済関係を中心に活況を呈する現在の日越の交流には、ベトナム人の視点に立って協力を続けてきた日本の地道な支援があったことを忘れないでほしい。 ※クレジット無しの写真は筆者提供
【Profile】
友田 博通 昭和女子大名誉教授。元昭和女子大学国際文化研究所所長、工学博士。1949年東京都生まれ。東京大学工学系大学院修了。1993年からベトナムホイアン町並み保存プロジェクト代表。編著『Traditional Folk Houses』、編著『ベトナム町並み観光ガイド』