医療を受けたいけど、経済的に不安がある……。そんなときに頼れる医療ソーシャルワーカーという仕事
治療費のことは一旦考えず、まずは医療機関に来てほしい
――やむを得ず医療費が支払えないという事態が発生した場合は、医療ソーシャルワーカーに相談すればいいということなんですね。 田巻:はい。医療ソーシャルワーカーが所属している医療機関の多くには、院内に相談室が設けられており、心配な点があればそこで相談ができる仕組みになっています。あとは医療機関の医師や看護師さんに相談してもらえれば、相談室につないでいただくこともできるはずです。 ――経済的に困窮している人が、医療で使える制度にはどんなものがあるのでしょうか。 田巻:いくつかあるのですが、まず社会福祉法人の医療機関が提供する制度に無料低額診療事業というものがあります。これは経済的な理由によって、必要な医療を受ける機会を制限されることがないよう、無料または低額な料金で診療を受けられる仕組みです。 ――無料低額診療事業の対象となるのは、具体的にはどんな人なのでしょうか? 田巻:基本的には社会福祉法の中で規定されているのですが、減免の基準となる収入などの諸条件は医療機関が作るように定められています。一般的には生活保護となる収入基準の1.2倍~1.4倍程度の方が対象になるところが多いでしょうか。 あとは、収入自体は多くても支出の多い方や、収入が微妙なラインの方などは各医療機関の判断になると思います。 ――その他にも、制度はありますか? 田巻:自治体が主導で行っているものでいうと、生活保護制度があります。国が定める基準に世帯収入が満たない場合、不足する分を保護費として受給することができる、憲法が定める健康で文化的な最低限度の生活を保障するものです。 生活保護世帯であれば、医療費は基本的にかかりません。自治体の福祉事務所に相談することで受給ができるようになります。 国主導のものですと国民健康保険法の第44条に、特別な理由があった場合は一部負担金の減免を行うという制度があって、これを「国保減免」といいます。対象となるのは主に災害、倒産、失業などによって収入が下がった方などです。 ――このような制度は、医療費が支払えなくて困っている人に対して、十分に知られていると思いますか? 田巻:生活保護の認知度はそれなりにあると思いますが、それ以外の制度については、一般の方はそれほど知らないのではないかと思います。大々的に宣伝がされている訳ではありませんし、経済的に困っている方の中には、スマホを持っていないなど、情報収集が苦手という方も多いと思うので、なかなか認知がされていません。 医療ソーシャルワーカーに相談していただければ、伝えることができるのですが、そもそもの医療ソーシャルワーカーの存在自体もあまり知られておらず、困っている人にリーチできていないのが現状です。 ――その理由をどのように分析されていますか? 田巻:医療機関が患者さんに対して経済的に困っていることがないか積極的に聞いているわけではないこと、医療ソーシャルワーカーの人員配置が十分でない医療機関が多いため、医療費の支払いに困っている人への対応が手薄になってしまっていることなどが挙げられると思います。 ――経済的に困っていることを周囲に言いづらいという、心理的なハードルもあるかもしれませんね。 田巻:そうですね。医療ソーシャルワーカーについて知っていて、まっすぐ相談室に来る方というのは少ないです。医師や看護師にお金に困っていることを話してくれて初めて分かるという感じです。お金について話すというのはなかなか勇気がいりますよね。 とりあえず来ていただかないと相談にすら乗れません。そういった方は、支払いを踏み倒すくらいの気持ちがないと、医療機関に行くことすらしないので、アウトリーチすることが難しく、誰かが状況を把握する以外に方法がないのが現状です。 言いづらくて我慢している方も多いと思います。限界を超えてしまったら元も子もないので。お金がなくても、まずは医療機関に来て窓口で相談してほしいですね。 また、近くの医療機関に医療ソーシャルワーカーがいない場合、各都道府県に医療ソーシャルワーカー協会がありますので、ご連絡いただければと思います